月の池

 

リーフプールはスクワーレルフライトと山道を登っていた。月の池に続く山道だ。

 

 

「何か、話してくださるかな」

スクワーレルフライトがつぶやいた。

 

「分からないわ。スター族様ははっきりとおっしゃらない時もあるから」

リーフプールはそういい、岩棚をのぼった。

 

「でも、私たちは何か行動を起こさなくちゃ。じっと待ってても、真実や解決策が分かるわけじゃないもの」 

 

 

スクワーレルフライトも続けてのぼってきた。

 

あと少し進めば、月の池と呼ばれるスター族と対話できる場所がある。

 

少し進んだところでリーフプールは立ち止まった。

 

ここは月の池の入り口のような場所だ。

 

 

「時間になるまで、ここで待ちましょ」

 

スター族とは、月がのぼってからでないと対話することはできないからだ。

 

スクワーレルフライトが口を開く。

「私、ここに来るの初めて。ところで、私も一緒に下へ降りていいの?」

 

「いいわよ。私が対話している間は、普通に待っててくれていいわ」

 

空は、薄く赤色に染まっていた。もうすぐ日が暮れるだろう。

 

 

 

「ここへきてからどれくらいたったのかな」

スクワーレルフライトが言った。

 

「もう、一時間くらいにはなっていると思うわ」

リーフプールの答えに、スクワーレルフライトは首をかしげた。

 

「もうそろそろ、暗くなっててもおかしくないわよね」

 

確かに、一時間もたてば暗くなっていてもいいころだ。

 

しかし、今の空は夕日に濃い赤色に染まってはいるが、まだ闇はやってきていない。

「もう少し待ちましょう」

 

 

 

「日が沈んだわ。月も昇ってきた」

スクワーレルフライトがそう言って立ち上がった。「行きましょ」

 

リーフプールもうなずいて立ち上がった。

 

 

二匹は細い道を下っていった。

下には、星の光を反射してキラキラ光る少し大きい池がある。

 

スクワーレルフライトは池の周りにある陸地の脇に座った。

リーフプールは池の水のところへいき、鼻先を水に触れさせた。

 

そして、目を閉じた。後はスター族が夢の世界へ導いてくれるのを待つだけだ。

 

 

リーフプールがいる場所は、知らない場所だった。

 

これはスター族様が見せてくれる夢だ。

 

立ち上がって座りなおし、スター族がやってくるのを待った。

 

しばらくして、空の星が流れ落ちてきた。

落ちてきたそれが猫の姿となり、リーフプールも知っている猫の姿も見えた。

 

「オークファング!」

 

オークファングは少し前ブラックポーと一緒に命を落とした猫だ。

フロストキットもいる。

 

輝く猫の集団から、一匹の猫が進み出てきた。

 

そして、他の猫たちは星となり、ふたたび空へもどっていった。

 

「ブルースター」

リーフプールは進み出てきた猫を見てつぶやいて、会釈した。

 

ブルースターは、ファイヤスターの前にサンダー族の族長を務めていた猫だ。

 

「ようこそ、リーフプール」

ブルースターは星の光で輝いている青い目でリーフプールを見つめた。

 

「何か話したいことがあるのね?」

 

リーフプールはブルースターの青い目を見つめ、答えた。

 

「はい。今、森にある脅威のことです」

ブルースターは理解したようにまばたきをした。

 

「やはり、そのことできたのね」

 

「気になる話があるのですが、いいでしょうか」

リーフプールはブルースターがうなずくのを確認し、ニコルから聞いた話を伝えた。

 

 

ブルースターはしばらく考えた後、口を開いた。

「今森にいるものが、その神の使いかどうかは分からない。でも、それはこの世のものではないことは確かよ」

 

「そいつの目的は、猫をころすことなのでしょうか?」

 

「分からない。私たちから言えるのは、それがとてつもない脅威だということだけ」

そういうと、ブルースターは首を振り、続けた。

 

「それ以上のことは、私たちにも分からない」

 

 

ブルースターの姿が輝きに満ち、消えようとしていた。

 

「私たちは、どうするべきなんでしょうか」

「できることをするしかないわ」

 

「私たち、どうなるんでしょうか」

ブルースターがいなくなってしまう前に、とリーフプールは必死にたずねた。

 

しかし、ブルースターはその問いには答えずに星空へ帰ってしまった。

 

 

リーフプールはハッと目がさめた。

 

向かい側にスクワーレルフライトがいて、目を合うとうなずき、月の池を出た。

 

ブルースターと話していたのは少しだったが、実際はだいぶ時間がたっていたようで、もう真夜中だった。

 

「スター族様、なんておっしゃってた?」

 

スクワーレルフライトが、日が暮れるのを待った場所に出たとたん口を開いた。

「あれは…ホワイトスレットなの?」

 

リーフプールは歩き続けながら答えた。

「その話については、詳しいことは分からないそうよ。あれがこの世のものではないことは確かだとおっしゃっていたけど」

 

「この世のものじゃないなら、ホワイトスレットだって考えた方がいいんじゃないのかな」

スクワーレルフライトの言っていることはリーフプールも考えていた。

 

「そうかもしれない。でも、それ以外は、何も分かることはなかったわ」

 

「スター族様にとっても、分からないことは多いのね」

スクワーレルフライトが岩棚を飛び降りながらつぶやく。

 

リーフプールがそれに続き、岩棚を降りた。

 

 

 

ホワイトスレットが次に襲ってくるのがいつか分からない。

 

この瞬間にも、待ち受けているかもしれない。

そう考えると、不安で押しつぶされそうになった。

 

この森で猫は狩る立場だったのに、狩られる立場になってしまった。