次の部族へ

 

 

リーフプールは走っていた。

 

少し息が上がってきていて、休みたかったが、休むわけにはいかない。

今は立ち止まっちゃいけない。

 

 

リーフプールはリヴァー族のなわばりへ向かって走っていた。

 

ついさっきはウィンド族のなわばりにいて、相当の距離を走ったことになる。

 

ウィンド族は、まにあったのだろうか。

信じてくれるか不安だったが、この真紅の空が証明してくれた。

 

走りながら、改めて木のすきまから空を見上げた。

 

空は依然として血のように赤いままだった。

さっきより濃くなったような気さえする。

 

襲われている猫たちの悲鳴が聞こえてきそうで、リーフプールは走る速度を上げた。

 

 

リヴァー族のなわばりの境界線が近づいた。

 

リーフプールは迷うことなく走り抜けた。

 

リヴァー族の猫たちのにおいが強くなるほうへ走り続けた。

その先にキャンプがあるはずだ。

 

 

だんだんとにおいが強くなった。

 

あの茂みがキャンプの入り口だろうか。

 

リーフプールはリヴァー族のキャンプへ入った。

 

 

「なんだ、おまえは!」

リーフプールに気づいたリヴァー族の雄猫が声を張りあげた。

 

その声にキャンプ内の猫たちが一斉にリーフプールを見た。

 

「サンダー族か! なにをしにきたんだ?」

先ほどと同じ猫がリーフプールに問いかけた。

 

「突然おじゃましてすみません! 緊急事態なんです!!」

 

そういうと、キャンプ内を見回した。

「レパードスターに会わせてください」

 

「私はここよ」

 

リーフプールは後ろからきこえてきた声に振り向いた。

「レパードスター」

 

レパードスターは三匹の猫を後ろにしたがえていた。

中にはミスティフットもいる。

 

「今パトロールをしていたの。調べたくて。この赤い空が何を示しているのか」

 

そして、しっぽをサッと振ってリーフプールへ話を振った。

「それで? サンダー族のあなたがここにいる理由を聞かせて」

 

リーフプールは必死に状況を説明した。

「実は、今サンダー族のキャンプに、例の侵入者が! それが、とてつもなく大きいんです。狼という種族らしいですが」

 

そこまで言った時、レパードスターが目を見開いた。

 

「この空の色はそれと関係があるの?」

 

「はい、その狼の力です。今が最大の力だそうです」

 

 

レパードスターは考えるような目をし、再び口を開いた。

「それで、私にどうしろと?」

 

「お願いします! リヴァー族も、一緒に戦ってください」

 

そして、言いにくい一言を付け加えた。

「サンダー族だけでは、勝ち目がありません」

 

茶色い雌猫が、口をはさんできた。

「それは、ウォーターフットの命を奪ったやつなの?」

 

リーフプールは茶色い雌猫を見た。

 

オレンジ色の目が怒りに震えている。

確か、ウォーターフットはリヴァー族のなわばりで何者かに殺された猫だった。

この雌猫は、つれあいだったのか?

 

「その可能性は高いわ、ダストフェザー」

レパードスターが言う。

 

その答えを聞き、ダストフェザーと呼ばれた雌猫の毛が見る見るうちに逆立った。

 

「そんなやつ……殺してやる。レパードスター、私たちも行きましょう! 戦わせてください」

そう訴えた。

 

「お願いします!」

リーフプールは懇願した。

こうしている間にも、猫たちは死んでいるかもしれないのだ。

 

レパードスターは、ゆっくりと目を閉じ、ゆっくりと開いた。

そして口を開く。

 

「分かったわ。リヴァー族も行く」

 

「俺らは関係ないんじゃないですか?」

周りにできた野次馬たちのどこかから声が飛んだ。

 

レパードスターが諭す。

「私が決めたこと。それに、そいつのことは森全体の問題なのよ。あなたはウォーターフットのことを忘れたわけじゃないでしょう?」

 

そういうと、ミスティフットに指示を出し始めた。

 

「私も行くわ。あなたも来てちょうだい。キャンプが無防備になってはいけないから、戦士を何匹か残すわ。そのメンバーを決めて」

 

ミスティフットはうなずき、他の猫たちに指示を出し始めた。

 

レパードスターがリーフプールに向きなおる。

「そのようすだと、まだ遣り残したことがあるようね」

 

リーフプールはギクッとした。確かにシャドウ族にも行かなければと思っていて気がせいていた。それが分かるものなのか?

 

「はい」

 

レパードスターは立ち上がった。

「じゃあ、それをやってきなさい。私たちは必ず行くから」

 

そういうと、ミスティフットとともに猫たちに指示を出し始めた。

 

 

リーフプールはその場を離れた。

空がますます赤くなった気がする。

 

ホワイトスレットの力が強まっているんだろうか。

ふと、あの白い牙を思い出し、背筋がぞっとした。

 

 

 

リヴァー族のなわばりとシャドウ族のなわばりの境界線にきたとき、ふと立ち止まった。

 

リーフプールの心の中を大きな恐怖が占めた。

 

何かが襲ってくるような感覚だ。

 

リーフプールは小さく悲鳴をあげ、身をかたくした。

しかし、何も痛みはしなかった。

 

今のは、自分が体験したわけではない。

スクワーレルフライトだ。

 

自分たち姉妹はときどき、気持ちを共有することがあるから、それなのだろう。

 

 

だとしたら。

 

 

リーフプールはハッとした。

 

スクワーレルフライトが危ないのかもしれない!! 

 

いますぐに助けに行きたい衝動に駆られた。

しかし、今はファイヤスターに命じられた仕事が残っている。

 

今助けにいっては、ホワイトスレットに勝てる可能性が減ってしまう。

 

リーフプールは後ろ髪をひかれる思いで再び走り出した。

 

 

ああ、スクワーレルフライト。

 

 

どうか無事でいて!!