ファイアハートVSグリフィン

 

 

目の前に広がるのは戦場、いや惨状といったほうがいいだろうか。

ブロークンテイル否、この時はまだブロークンスターと呼ぶべきだろう。

彼は近くの木にのぼり、ゆったりとくつろぎながら戦況を見ていた。

 

今、一匹の猫が刺殺された。殺した猫は亡骸をごみのようにわきに捨て、次の敵に襲いかかっている。

 

(俊敏なウィンド族も奴には追いつけんか)

 

視線を移せば別の一匹が茂みに殴り飛ばされていた。

耳障りな笑い声を上げる戦士が茂みに飛び込んでいく。幸いにもこちらからは見えないが、敵の戦士がどうなったかは容易に予想がついた。

 

「逃げろみんな!キャンプを放棄する!」

 

敵将が撤退命令を出した。部下たちが信じられないという表情で自分たちのリーダーを見つめる。

 

「逃げるんだ!これ以上の犠牲を出させるわけにはいかない!」

 

リーダーの苦汁の決断を聞いて、部下たちも悔しそうに従う。

 

こちら側の何匹かがキャンプの端まで追いかけたが、それ以上は追わず、皆勝ち誇った笑みを浮かべ、狂笑をもらす。

 

フフフフ…ハハハハハ!なんとあっけない。しかしこれで森の半分は俺のものだ!!

 

だが、喜びに浸っている時間は短かった。彼の前に一匹の猫が飛び上がってきたのだ。

 

すぐとなりの枝に着地し、苛立った様子でこちらを睨む。

 

「終わりか!?足りないんだよこんなんじゃあ!!!もっと戦わせろ!もっと戦え!」

 

戦士、クラッシュテイルが血濡れの刃を振り回す。

 

「落ち着け、追撃を命じる。二度と戻ってこれないようにしてやれ。」

 

「…フンッ。」

 

クラッシュテイルがアクロバットな動きで地面に降り、駆けていく。奴の足ならまた何匹か犠牲になるだろう。

 

(まあいい、バカも使いようだ。)

狂戦士が走り去った方向を見つめながらブロークンスターは思っていた。

 

シャドウ族がウィンド族を襲撃した日のことであった。

 

 

 

 

昼になった。キャンプにファイアハートがいないのに気づいたグリフィンは、訓練用の砂場で彼を見つけた。

 

「はっ!やあ!」

 

ファイアハートは空間に向かってしきりに攻撃している。

 

(うん?シャドウトレーニングか?)

 

しばらく眺めていると、ジャンプからの着地に失敗して転倒した。

 

「おいっ!大丈夫か!?」

「グリフィン…。」

ファイアハートは体を起こしすとしばらくグリフィンをじっと見つめた。

 

「おい、なんだよ。雄に熱視線向けられても気持ち悪いぜ?」

「グリフィン…お願いだ僕と戦ってくれ!」

「な、何を言い出すんだお前は!?突然。」

「お願いだ!今のままじゃ駄目なんだ!」

 

ファイアハートが頭を下げて必死に頼み込む。

 

「よせよ!頭上げろって!相手ぐらいならしてやっから。」

 

 

「さぁて!往生しな!」

砂場で向かい合ったグリフィンがファイアハートを前足で指しながら言う。

 

「…前から思ってたけど、なんなのそれ?」

 

「フッ、前ふりは必要だろ?」

ファイアハートは訳がわからないといった表情で首をかしげる。

 

「コホンッ!…さて、加減はしねぇぞ…!」

グリフィンは真剣なまなざしで告げると、飛びかかる。ファイアハートはそれを受け流し、攻めに転じようとするが、その瞬間、グリフィンの尻尾がファイアハートの視界を奪った。

その隙にグリフィンはファイアハートの横腹にパンチを食らわせた。

 

「くっ!」

ファイアハートは横に転がると、地面をけって飛びかかる。しかしグリフィンは今度は逆に飛び込み、ファイアハートの目の前で前足をたたき合わせた。

 

「-っ!?」

怯んだファイアハートは再びパンチをもらった。文字通り、猫だましである。

 

「なんだいいまのは!?猫だまし!?」

「OK、分かってるじゃねぇか。」

 

ファイアハートは迫りくるパンチを沈んでよけると、そのまま懐にパンチを食らわせる。

 

「ふぅん、速さと重さは十分だ。」

 

そういって、グリフィンは飛翔する。

(-!あの技か!)

「さあ!こいつはどうする?」

急降下してくるグリフィンを見て回避は不可能と悟る。

 

ファイアハートは後ろ足で立って、防御の構えをとった。

 

「…スイートだな。」

「…えっ!?」

 

グリフィンは空中で羽根の角度を調整し、落下角度を調整、ファイアハートの目の前に降り立ち、ばねの要領でアッパーを食らわせた。ファイアハートは地面に倒れた。

 

 

「くそ、くそぉ…。」

 

ファイアハートは地面をひたすら殴りつける。

 

 

「駄目だ、こんなんじゃあいつ等に勝てない…!!」

 

「…それは、怖いからか?それとも、迷ってるからか?」

「―!それは…。」

「お前、あいつ等が可哀そうだと思ったんだろ?狂気にとらわれた奴らが。」

「…分かってるんだ。自分でも。あいつらを生かしておいたら絶対良くないことになるって。でも…。」

 

がっくり項垂れるファイアハートの肩をポンッと叩いてグリフィンは言った。

 

「いいんじゃないか?それで。」

「え…。」

「そういう優しい心をもって敵に接することができるってすごいと思うぜ?」

「…。」

「お前の情は間違っちゃいねぇ。迷ってもいい、だが最後には答えを出せ。お前の答えをな。」

「グリフィン…。」

「とっ、俺としたことがジジ臭いこと言っちまったな。さて、腹も減ったし帰ろうぜ。」

 

グリフィンはいつものニヒル笑いに戻ると、キャンプに向かって歩き出した。

 

 

「グリフィン!」

 

ファイアハートの声に立ち止まる。

 

 

「…ありがとう。」

 

 

彼はフッ、と笑うと、そのまま歩いて行った。