最終決戦後篇

 

 

「・・・あんたはなぜそんなに殺したがるんだ!?」

 

グリフィンはクラッシュテイルを引っ掻いて言った。

 

「邪魔なんだよ。俺が嫌いなものはみんな消してやる。」

 

クラッシュテイルは引っ掻き返しながら答えた。

 

「家族もか?」

「家族?ハッ知らねえな。俺にとっちゃうるさいだけの存在だ。」

 

二匹が両前足でがっちり組み合いながら言った。

 

 

「両親が死んでずっと二匹だけだったんじゃないのか!?」

 

するとグリフィンの予想しなかった言葉が返ってきた。

 

 

「ククククク・・・両親か、俺だよ。両親を殺したのは。」

 

「な・・・に?」

 

殺しただと?バカな、そのころこいつはまだ幼かったはず…。

 

「本ッ当にうざかったからな。サンダー道に罠を張って、怪物に引き殺させた。」

 

 

ただ残忍さだけの浮かぶ笑みで話すクラッシュテイル。

 

「いいか?俺は森の支配なんかに興味はない。ただ滅ぼしたいんだよ。お前らを。」

 

クラッシュテイルが突きを繰り出す。グリフィンはバックステップでかわした。

 

 

「・・・そうか、なら。」

 

「クラッシュテイル・・・これでケリをつけようぜ・・・。」

 

グリフィンは技の反動がまだ残る体に鞭打って立つ。

 

「さぁて・・・往生しな・・・!」

 

最後の決め台詞とともに走り出す。

 

「グレーストライプ!」

「ああ、行こう!」

 

やがて森の未来を担う彼らもまた走り出す。

 

「うおりゃ!」

「ハァ!」

 

グリフィンとクラッシュテイルが正面からぶつかり、お互いの顔に強烈

なパンチが入る。

そのまま乱打戦に入っていく。

 

「でぃぃあ!」

「シャァァ!」

 

けして美しくも誇り高いものでもない、ただ生々しいだけの乱打戦。

それを行う両者の目、一方は理不尽な暴力への怒りと仲間を守ろうとする強い意志、もう一方は自らを取り巻く全ての者への憎悪が宿っていた。

 

「シャァ!」

「ぐっ・・・!」

 

クラッシュテイルが尻尾の刃でグリフィンを切り付けた。

 

「くっ・・・。」

 

グリフィンは立ち上がろうとしたが、クローファング戦で使った技の反動もあってうまくいかない。

元々捨て身の業なのだ。こうなるのは目に見えていた。

 

「止めを刺してやる・・・。」

 

クラッシュテイルがグリフィンの眉間めがけて切っ先を突き出した。

 

 

「させるかぁーー!」

 

不意にわきで戦っていたファイアハートが飛び込み、尻尾を抑えつけた。

 

「チッ!放せよこいつ!」

 

クラッシュテイルは尻尾を振り回したがファイアハートは離れず、刃の固定に使っているツタを噛み切った。

地面に落ちた刃を蹴り飛ばして向こうに投げる。

「-!・・・チッ。」

クラッシュテイルは忌々しそうに歯ぎしりするとファイアハートを投げ飛ばした。

すると今度はグレーストライプが背後から奴を抑えつけた。

ファイアハートもそれに加わる。

 

「今だグリフィン!」

「止めを・・・刺してくれ!」

 

「分かった、覚悟しやがれ!」

グリフィンが、ばっ!と飛翔する。

 

「なめるなぁぁぁ!」

「-っ!」

 

拘束から自力で脱出したクラッシュテイルが二匹を踏み台に飛び上がってきたのだ。二匹の戦いが空中で決着を迎えようとしていた!

 

 

「う・・・くっ。」

ジンジャーは意識を取り戻した。グレートロックに向かって投げ飛ばされたとき、激突の衝撃で角を折り、さらに気を失っていたようだ。体に痛みと寒気が走る。失血のせいだろう。はっ!急いで戦況を確認しなくては。

彼は体を起こしあたりを見回す。

すると、倒れたクローファングと、その近くで戦っているグリフィンが目に入った。

あの構えから見てドロップキックを使う気だろう。

しかし敵は必ず何らかの手段で返すはずだ。

 

(今、俺に出来ることは・・・。)

ジンジャーはゆっくり立ち上がると、両前足を胸の前で合わせ、ゆっくり開きながら腰を落とし、力を込める。

本来ならこのまま突っ込んでラリアットにつなげるが今はこれで十分だ。

 

「ふんっ!、おぉぉぉぉぉぉ、はぁ!!」

 

ジンジャーは飛び上がったクラッシュテイルに向けて相手をすくませる気迫を放った。

 

 

飛び上がった二匹、踏み台を使ったクラッシュテイルがグリフィンの上をとった。

この状況、無論高度を上げることはできるが先に敵の爪が入るだろう。

 

「・・・ぐっ!?」

その時だ。突然クラッシュテイルが体をビクッっとふるわせたのだ。

 

「-!」

そのすきを逃がさずドロップキックを決める。

 

「ぐはぁぁ!!!」

クラッシュテイルが勢いよく地面にたたきつけられる。グリフィンはしっかり着地すると、グレートロックに目をやった。

 

(助かったぜ、相棒。)

 

グレートロックの岩の下、疲れた様子でこちらに微笑みかけるジンジャーにウインクをかえした。

だが、

 

「がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

クラッシュテイルがが落下した茂みから飛び出してきた。脚はふらついているが、怒りと殺気に満ちている。

 

「そんな、あの高さから落ちて無事なんて…。」

 

ファイアハートが悲鳴に似た声を上げる。

 

「奴は俺なみに身軽だからな。落下の瞬間体勢を立て直したんだ。それに落ちたのが茂みだったから・・・。」

(それでも十分事足りるはずなんだがな・・・。)

 

「殺す…殺す・・・殺す!」

 

目をぎらつかせながら接近してくる。その時だ。

(ん?なんだあれは・・・?)

クラッシュテイルのキックを受けて毛の剥げた胸に何か…、黒いクリスタルのようなものが埋め込まれている。

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!」

クラッシュテイルが走り出す。来る!!グリフィン達はとっさに身構えた。しかし、

「ぐぅ!?」

「なっ・・・。」

クラッシュテイルが突然押し倒された。相手はクラッシュテイルにまたがり、首元に犬歯をつきたてる。

 

クラッシュテイルが怒りの声を上げながら、相手の顔をめちゃくちゃに引っ掻き、切り裂いたが、相手の刃がさらに食い込み、唸り声がだんだん弱くなりそして、永遠に消えた。

 

そして一拍に間の後、のしかかっていたその猫もまた地面にあおむけに倒れた。

 

「キシャシャシャシャ・・・シャシャシャやっと分かったよ。・・・俺が・・・腹ペコなわけ・・・兄貴のせいだよ。・・・キシャ、シャシャ、シャ・・・。」

 

止めを刺した猫、クローファングもまた息絶えた。

 

 

「・・・・・・終わったな。」

 

 

グリフィンは二匹の死体を見つめていた。

部下たちはみんな逃げて行った。こういう集団はリーダーが倒れれば脆い。

 

「でも、あいつが最後に言ってた言葉、兄貴のせいってどういう意味だろう?」

 

グレーストライプが誰にとなく尋ねる。

 

「たぶん、この人が本当に求めてたのはきっと、食べ物ではなく愛情だったんですよ。」

 

ジンジャーが暗い口調で答えた。

 

「幼いころに両親が死んで、愛されたかったんだろう。だからこんな兄貴にもついてきたんだ。」

 

「それが何で、あんな狂ったやつに…?」

 

ファイアハートの問いにグリフィンは答えた。

 

「・・・心の隙間を埋めたかったのさ。愛されたい、満たされたい思いでできた隙間をヤケ食いで埋めるしかなかったんだ。」

 

「もともとそんなに心が強い人じゃなかったんですよ。きっと。」

 

「じゃあ・・・クラッシュテイルは?」

 

グリフィンは黙って首を横に振った。

 

「・・・なんだか、勝ったっていうのに嬉しくないな・・・。」

 

「いいのさ、グレーストライプ。それで・・・そう、それでいいのさ・・・。」

 

 

終局。さすらいの翼猫と、仲間たちの戦いはこうして終わりを告げた。