再会

 

 

ファイアスターは何が起きたのか分からなかった。

 

 

 

キャンプはアナグマの襲撃を受けた。巨大な影の軍団に部族は滅ぼされてしまうのかと思ったその時だ。

 

灰色の布をかぶった、何者かが現れて、猫ではない・・・そう、アナグマに似た声で何かを話していた。

 

 

 

その声にアナグマ達は驚き、しばらく反論したり、興奮していたが、次第にそれも収まり、のしのしと歩き去っていった。

 

 

 

(一体・・・何が・・・?)

 

 

 

「久しぶりですね、ファイアハート。いや、ファイアスター。」

 

 

 

「お、お前は!?」

 

 

 

振り返った相手の顔を見て、ファイアスターは驚いた。

 

 

 

「ジンジャー・・・なのか?」

 

 

 

ジンジャーはまとっていた布、(ファイアスターが知るはずもないが実際は砂漠の横断などにつける、東洋風マント)を脱ぎ捨てる。

 

するとそれが小さくなって、右腕のアームブレスレットに吸い込まれた。

 

 

 

「お前、どうして・・・?」

 

 

 

「よかったですね、俺が間に合って。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

ジンジャーの顔を再度見ると、ファイアスターは思わず後ずさりした。

 

 

 

怖い・・・・。こんな顔をしているジンジャーは初めてだ。彼はただ静かに、口を開いた。

 

 

 

「俺が来なかったら、今頃あなたたちはみんな揃ってズタズタだ。」

 

 

 

そして息を少し吐くと、目つきに怒りの色が混じっていく。

 

 

 

「なぜだ!?なぜあんなバカなことをしたんだ!?」

 

 

 

「な、・・・なんだ!?なんのことだ!?」

 

 

 

「…そうか、聞いた俺が間違ってましたよ。教えてあげましょう。なにがあったのか。」

 

 

 

それからジンジャーは語り始めた。あの後ミッドナイトと出会いアナグマ語をはじめとするいくつかの言語を習ったこと。そして…今の怒りの発端。

 

 

 

「俺はここに来る途中、一匹のアナグマの子供を助けられなかった。」

 

「あんなに懸命に生きようとしていたのに…。何度も死にかけて、それでも必死に死神と戦っていたあの幼い命を・・・。」

 

 

 

とても暗く重い口調、救えなかったおのれの無力を悔やむように拳を震わせ、一言ずつその重みが伝わってくる。

 

 

 

「けど、おかしいと思いません?」

 

 

 

その口調に再び怒気が混ざっていく。

 

 

 

「そのこの病は普通に十分な栄養をつけて、育っていれば十分打ち勝てるものだったんですよ。」

 

 

 

「っ!・・・まさか・・・。」

 

 

 

「そうですよ。ファイアスター。いや、この森の全ての猫たち、あなたたちのせいです!!」

 

 

 

「僕たちのせいだと!?どういうことだ!」

 

 

 

「そのアナグマ達は言ってましたよ。突然やってきた猫の群れにすみかを追い払われったって。」

 

「あなたたちが彼らを追い出したせいで、その子は死んだんです!!」

 

 

 

「ふざけるな!!俺たちが前の森でどんな目にあったと思う!?仲間がたくさん死んで、やっとの思いでここにたどりついたんだぞ!?」

 

 

 

ファイアスターはこらえきれずにジンジャーにつかみかかった。

 

 

 

「それにアナグマは理由もなく猫を殺す危険な生き物だ!!仲間を何匹も殺されてる!!」

 

 

 

その言葉に対しジンジャーはファイアスターの腕を振りほどいて言った。

 

 

 

「それはあなたたちの『偏見』ですよ。アナグマは理由なしで猫を殺したりなんかしない。」

 

「あなたたちは知らないうちにアナグマを怒らせる事をしていた…。それだけです。」

 

 

 

「それに・・・。」

 

 

 

ジンジャーはファイアスター、いやサンダー族の猫たちを前足で指して言った。

 

 

 

「あなたたちは自分たちが『ニンゲン』にされたのと同じことをアナグマ達にしたんです・・・!」

 

 

 

部族のみんながその気迫に後ずさりしてしまう。

 

 

 

「さっき俺が説得した連中のリーダーはその子の親だった・・・。」

 

 

 

「えっ・・・。」

 

 

 

「こう言ってましたよ。『私たちの生活を奪い、すみかを奪い、食料を奪い、あの子の命をも奪った侵略者共に復讐して何が悪い!』って。」

 

 

 

一族のだれもが、うつむいたり、気まずそうに目線をそらしたり、ぶつぶつ呟いている。

 

 

 

「じゃあ、・・・。」

 

 

 

ファイアスターが沈黙を破った。

 

 

 

「じゃあ、どうすればよかったんだ!?俺たちはお前がさっき言ったことなんて知らなかった。なのにどうすればよかったんだ!」

 

 

 

「相手のことを知ろうとすることです。いいひと、悪いひとにかかわらず、相手のことを知ろうとしない時点で終わりです。」

 

 

 

ジンジャーは答えた。

 

 

 

「何事にも広い視野で当たることです。狭い視野でやみくもに走っても、悲しいことしか起こりません。」

 

 

 

怒気は収まり、よく知る優しい口調に戻って行った。

 

 

 

「一つの世界に生まれてきたんです。分かりあえるはずなんです。たとえそれが難しくても、偏見とか軽蔑とかせずに、対等の存在として認める。それが大切なんですよ。」

 

 

 

「…ジンジャー…。」

 

 

 

その時だ、破壊された壁を通って誰かが入ってきた。

 

 

 

「取り込み中悪いが、邪魔するぜ。」

 

 

 

「お前、・・・グリフィンか!」

 

 

 

ファイアスターの問いにグリフィンは数年前と変わらぬニヒル笑いで答えた。

 

 

 

「おう、久しいな。ファイアハート、おっと今はファイアスターだったか。」

 

 

 

(ジンジャーだけでなくグリフィンまで…いったいなんなんだ?)

 

 

 

「遅いですよ。なにやってたんです?」

 

 

 

「なぁに、ちょっとな。ほら、行けよ嬢ちゃん。」

 

 

 

グリフィンの後ろからリーフプールが現れた。俯いたまま気まずそうにしている。

 

 

 

「リーフプール!!どこいってたんだ!?」

 

 

 

グリフィンは尻尾でリーフプールの背中を押して、家族の前に行かせると、今度はジンジャーの前に行って声をひそめながら言った。

 

 

 

「早く用事をすませた方がいい。ここに来る途中で何体か倒したが、もたもたしてればこの森は終わりだ。」

 

 

 

「ペガサス君とベリッシーさんは?」

 

 

 

「“奴”がついてるし、三カ月もかけて鍛えなおしたんだ。大丈夫だ。」

 

 

 

「だから早く見つけないとな。」