究極の幻影
「う、・・・・・・。」
ジンジャーは真っ白な空間で目を覚ました。
あたりは濃霧で何も見えない。ただただ白い闇が続いていた。
「ここは・・・!」
不意に背後に気配を感じて振り返る。
「誰だ・・・?」
霧の奥深く、一点だけ黒い影ができている。
そこには一匹のホーンドキャットがいた。霧で姿はシルエットだけ、ぼんやりと見える。
ザッ、ザッ・・・。
影がこちらに向かって動き出した。やたらでかいと思っていたらなんと後ろ足で立ったままこちらに歩み寄っている。
「あなたは・・・一体。」
何者?そう言おうとした途端映像がブチンッ!っと切れて、いつもの寝床にいた。
「・・・夢?」
(やれやれまたあの夢か・・・)
今日で何度めだろうか・・・?ジンジャーはあくびをすると、また眠りに就いた。
キャンプの戦いから、四週間がたとうとしていた・・・。
「やあ、姉さん。どう?グリフィンとは。」
昼、ジンジャーはキャンプの近くにいた姉に話しかけた。
「どうって何よ?」
「いや、何か進展があったかなって。」
「ちょ、進展ってなんでそんな話になるのよ!?」
「お、慌てるってことはまさか。」
「んなわけないでしょ!!・・・いや、強いて言うならそうね・・・。」
「ん?」
「うん、うるさいキザ野郎から、可愛い弟分に昇格・・・かな?」
「あはは、それはまたずいぶん…「お~い、カモミール~!!」
会話の途中でグリフィンがやってきた。
「一緒に狩りに行く約束だったろ?そろそろ行こうぜ。」
「ああ、グリフィンいいところに来た。姉さんはグリフィンのことを・・・!モゴモゴモゴ…。」
ジンジャーは言いきることができなかった。なぜならカモミールが口をふさいだからだ。
「?どうした?」
「なっ、なんでもないわよ!!さあ、とっとと行くわよ!」
「お、おう。」
カモミールが大慌てでグリフィンを引きづっていく。
「ははは、姉さんでもああなるんだ。」
「・・・恋愛か。分からんな・・・。」
突然隣から声がした。
「うわっ!いたの?バレット!?」
「…まあ、通りかかっただけだ。」
「ふぅん、で、なんだって?」
「うむ、どうも恋愛とはわからんな。部族を後世に残すのには必要だが・・・。」
「君はずいぶんと硬いね。」
「そうか?」まあいい。仕事に戻るぞ。」
「ああ、うん。」
ジンジャーとバレットはそれぞれの仕事に戻った。
「しかし、ここまで激しいと花。この山の戦いは。」
夜、戦士部屋で寝る前のしばしのグルーミングに入っていたグリフィンが言った。
「なんだ。別にいいんだぞ。無理して残らんでも。」
「いやそんなわけじゃねぇさ・・・。」
「どうやったら終わるんでしょうね、この戦い。」
「・・・どっちかあが滅びるか、降伏するまで・・・かしら。」
姉の答えはかなり悲しいものだった。
「そんな!そんなの…「悲しすぎる…か?」
ジンジャーの答えにバレットが割り込んだ。
「っ!」
「考えてみろ、この戦いは曽祖父の代から続いてるんだ。いまさら和平が成り立つとは思えん。」
「もし、できるとしたら、それは両部族を黙らせて支配下におけるような絶対の存在が現れるしかないわね。まあ、長続きしないだろうけど。」
「絶対の、存在・・・。」
そのフレーズを聞いてジンジャーはあることを思いだした。
「ねえバレット、覚えてる?昔、俺のおじいちゃんに聞いた話。」
「む?ああ、『エクシード』の話か。」
「エクシード?なんだいそりゃ?」
グリフィンの問いにカモミールが答えた。
「うちの部族に伝わる、伝説みたいな話なの。まあ、信じている人はいないけど。」
「ほう。どんな話なんだ?」
「はい。昔この山に一匹の猫が生まれたそうです。名前も顔も、もう忘れられてしまったけど、確かなのはその猫が圧倒的に強かったこと。」
「圧倒的に・・・?」
「はい。彼のあるところには雷鳴が轟き、ある時は槍の雨を、またあるときは水流を操ったとされています。」
「おいおい、ずいぶんとファンタジーな話だな。」
「ええ。彼はその力で両部族を屈服させ、君臨したとされます。」
「ふぅん、なるほど。」
「しかしあるとき彼は狂気に取りつかれ、親しい人をすべて殺し、暴れたそうです。」
「なんと、そいつぁ・・・。それで、どうなったんだ?」
「・・・確か、自殺だったな。」
「自殺・・・。」
「家族の面影のある人を殺そうとした時、彼は正気に戻ったの。そして罪悪感から・・・自ら命を絶った。」
「・・・・・・・。」
「おいジンジャー。まさかお前この戦いの戦士がいたら、などと思ったのか?」
「いや、まあ・・・。」
「ないものねだりはできん。伝説の存在などあてにするな。」
「う、・・・分かってるさ。」
「さあさあ!もう遅いし、寝るわよ。」
カモミールが前足をたたいてお開きにした。
(エクシード・・・俺の夢となにか関係があるのか・・・?)
苔のベットで丸くなりながらジンジャーは思った。