それぞれの過去

「お前も、エクシードだ。」

 

頭を硬い物で殴られた気分だった。

 

「・・・え?」

 

今、父は何と言った?俺が、…エクシード?

 

「なっ!?どういうことです!!族長!!」

 

ジンジャーの代わりにバレットが驚いた声を上げた。

 

「言ったとおりの意味だ。ジンジャーは間違いなくエクシードだ。」

 

「そうではありません!!それは・・・族長が裏切り者だということです!!」

 

裏切り者、その通りである。ジンジャーがエクシードであり、まして外界からの来訪者をほとんど寄せ付けないこの山でエクシードが生まれるとしたら可能性は一つしかない。

 

「待ってよ父さん!それじゃあ、・・・それじゃあ母さんは―!」

 

「そうだ。血はつながっていない。」

 

リーフはいったん切ると、昔を懐かしむような、どこか悲しげな様子で話し始めた。

 

「彼女はコウモリ猫一族の戦士だった。」

「彼女と出会って、俺は夢を見ていた。角猫も、コウモリ猫も、共に生きていくことができる!と、そしてひそかに二匹の子供をもうけた。一匹は彼女の部族、そしてもう一匹は俺のほうで引き取った。」

 

「もう一匹?それは一体・・・。」

 

「・・・レギオンだ。順ではあいつが兄にあたる。」

 

「なっ!!」

 

一族がどよめく。レギオンが・・・俺の兄さんだって!?

 

「じゃ、じゃあ姉さんは!?姉さんはどうなの!?」

 

「カモミールは母さんの連れ子だ。おまえと血縁はない。」

 

「そ、・・・そんな・・・。」

 

天と地がひっくり返ったようだ。俺の今まで教えられてきた出生が…全て嘘だったというのか!?

 

「なぜです族長!!なぜ掟を破ってまで!まして、子供が今のグリフィンの様になるかもしれない、そんな可能性があるのになぜ!」

 

バレットが怒りの声をあげ、他にも抗議や疑問を投げかける声が次々と上がる。

リーフは尻尾でそれを制し、俯いたまま言った。

「夢を見ていたんだ。だが、・・・夢は覚めて、夢と気付く・・・。」

 

彼はそこまで言うと、演説台を降りた。部族の仲間たちが次々とその後追っていく。

 

そして、ただ一人ジンジャーは―

 

わけが分からない!死んだ姉とは血縁がなく、敵の族長が自分の兄で、友人は化け物に変わって、自分もその同類だと!?わけが分からない!

 

ジンジャーはキャンプから飛び出し、走りながら叫んだ。

 

「俺は、俺は一体誰なんだ!?誰か、頼む!誰か、教えてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

グリフィンはごみ山の中にいた。角猫一族の山の、・・・ではない。そう、ここは彼が旅を始めたときにいた、あの場所だ。

なぜここにいるか?わからない。気付けばいつの間にかここにいた。

 

「・・・結局ここに戻ってきたか・・・。」

 

彼の心は暗く沈んだままだった。

 

「まあいい・・・。今度こそ、このごみの様に朽ち果てよう・・・。」

 

彼はニンゲンの乗る怪物の顔のあたりに腹をさらけ出して倒れた。

 

「俺の旅は間違っていたんだ…。俺が首を突っ込まなけりゃ、彼女は死ななかった…。」

 

「いや、そもそも俺がだれかに愛されたいだなんて、…それ自体が間違ってたんだ。」

 

何故なら俺にはその資格がない。愛するべき家族を殺した俺には・・・!

 

そう、彼は思い出したのだ。失った記憶を。ここに来た時から。だが…それはとても思い出したくないものだった。

 

 

彼はもともと、母親と共にとある家で飼われていた。

しかし、

 

あるときその家の住人が彼を悪魔の化身だと言って、殺そうとしてきた。

 

銃声、火花、迫りくる散弾。彼は死の恐怖に襲われ、初めて―

 

 

覚醒した。それからのことは恐ろしすぎて思い出したくもない。燃える家を見つめながら飛び立ち、そして・・・記憶を失った。

 

「俺は、俺にもう生きる意味なんてない・・・。全て、・・・全て失った。」

 

彼の心は、闇の中に、ぽつんとうずくまっていた。