草笛
(俺はどうしてしまったんだろう・・・?)
ジンジャーの悩みはまだ続いていた。暗い気分のまま好物の青汁をあおる。それでも気分はちっとも晴れなかった。
「うわっ!?ちょ・・・・!何よこれ!?」
部屋に入ってきたカモミールの声にハッとして振り向く。
「やあ、姉さん。そんなに驚いてどうしたの?」
「どうもこうもないわよ!何っ!?この青汁の臭いがする空樽は!?」
そう、今ジンジャーは戦士部屋に青汁の樽をもちこみ、一人で全部飲んでしまったのだ!!
「いいじゃないか。体にもいいんだし。」
「いい、悪い以前の問題でしょ!?飲みすぎよあんた!!」
「・・・ごめん。」
「ハァー、まったく・・・。なんかあったの?」
一つのため息の後、弟を心配してた尋ねるカモミール。
「その…あのさ、なんていうか俺、頼りないかなって。おれ、戦士として錆びついたのかな・・・。」
「あんたが頼りない?なんでそう思うのよ?」
「グリフィンに言われたんだ。戦ってる時の俺は悲しそうだって。俺、甘くなったのかな。」
自分の腕を見つめるジンジャー。
「ふ~ん、あいつがねぇ・・・・。でもそれって、腕が錆びついたって言うのと関係ないんじゃない?」
「えっ・・・。」
「戦いにあんたらしさがにじみ出てるってことよ。あんた気付いてる?部族最強って前から言われてるけどあんた、一度も敵を殺してない。」
「それは!」
「ふつうは一匹は殺してるもんよ。ここまで厳しい状況なら。現にあたしやバレットはもう何匹か殺ってる。」
「・・・・・・。」
「第一あんた根本的に戦い方が違うもん。」
「えっ・・・?」
(違う…?戦い方が・・・?)
「あんた鉤爪、一度でも使った?」
「・・・いや・・・。」
ジンジャーはかぶりをふった。
「そこよ。普通戦いは相手を倒すこと、極端にいえば殺すためにあるのよ。でもあんたはできるだけ相手を傷付けない戦い方をしてる。」
「・・・!」
「・・・まっ、そういうとこよ。」
カモミールはそこまで言うと、部屋を出て行った。
そしてジンジャーは…
「そうか、これだったんだ。俺がしたいことは!」
どうやら、悩みをふっ切ったようである。
カモミールはキャンプの端にある一角で草笛を吹いていた。
「よお、珍しいものやってるな。」
「…何、悪い?」
「いや、素敵だと思うぜ。さっき子猫たちにも聞かせてただろ?」
カモミールのドライな反応にグリフィンは陽気に返した。
「っ!あんた、前言ったでしょ!?あたしを口説くんなら・・・。」
カモミールの言葉をグリフィンは前足を一歩出して遮った。
「ああ、わかってるだから今日は宣言をしに来た。」
「宣言・・・?」
怪訝な顔をするカモミールにグリフィンは言った。
「俺はもっと強くなる。強くなって、あんたにカッコつける。」
「はぁ!?」
「だから楽しみにしてな。惚れさせてやるから。」
「・・・・・・いいわ。覚えとく。」
「…それと一つ頼みがある。」
「頼み?」
「それ、草笛を教えてくれないか?」
「覚えてどうするの?」
「音楽ができる猫なんてそうそういないからな。口説くのにも使えそうなスキルだし。」
「はっ!最っ低!!」
「冗談だ!あんたに教えてほしいんだ。頼む。」
頭を下げて頼むグリフィンが少しだけ可愛く見えたカモミールはクスッッと笑った後言った。
「いいわよ。手ごろな葉っぱを用意しなさい。」
「やっと笑ってくれたな。」
「うるさいわよ。」
二匹の距離は少しずつ縮まっていた。