狂気の影
3匹についてしばらく歩くと、開けた場所に出た。その間マンティスキットはおれのまわりを跳ねまわっていた。話じゃもうすぐ生後六カ月をむかえて見習いになるそうだが、心はまだ無邪気な子供のようだ。
「ついたよ。ここが僕たちのキャンプさ。」
ファイアハートが言った。俺は一通り中を見回して答える。
「ほぉ、部族猫は今まで何度か見たことがあったがこんないいキャンプは初めてだな。」
「お兄ちゃんは前にも森に来たことがあるの?」
「いや、別の森さ。ここ以外にも部族暮らしをしてる猫はいるんだ。そのうち、話を聞かせてやろう。」
とウインクをしながら言うとマンティスキットは
「うん!」
と目を輝かせていう。フッなかなか可愛いな。
「じぁあブルースターに報告してくる。ちょっと待っててくれ。マンティスキット、君も来るんだ。」
グレーストライプがそう言って岩の下にある苔の前まで走って行った。マンティスキットはまたね~と笑顔で後に続く。
「ねぇ、君は一体どこに行くつもりで旅をしてたの?」
ファイアハートが聞いてくる。
「ん?ああ、別に目的はないさ。旅をして、いろんな奴とあって、いろんなものを見て、いろんなものを知って…そのな自由な生き方がしたかったから…かな?」
「へぇ…なんかいいね。そういうのも。」
「そう思うか?ま、俺は生きたい生き方を選んだだけさ。お前もそうだろ?」
「えっ!?なんで僕が部族の生まれじゃないって?」
少し驚いた顔で聞いてくる
「道中、マンティスキットから聞いた。飼い猫だったけどいっぱいいっぱい努力してる頑張り屋さん…だそうだぜ。」
「あは、そっか…。」
少し照れくさそうに顔をそらす。将来いい男になるよ、お前は。
するとグレーストライプが青い雌猫を連れて戻ってきた。ほぉ綺麗な猫だ。ちょっとだけ見とれちまった。
「あなたがグリフィンね、私はブルースターここの族長よ。今日はうちの見習いをお助けてくれてありがとう。」
ブルースターは丁寧にお辞儀をする。
「例には及びませんよ、レディ。困ってる雌猫はほっとけないたちなんでね。」
「ええ、だけどマンティスキットが見つかったことをみんなに報告しなくては。」
「捜索隊として出したタイガークロー達が戻ったら集会を開くからあなたも参加してほしいの。」
俺は少し考えた。日は落ちたし、夜の森をつっきるにはリスクがある。
「OK、美人の頼みは断れないんでな。」
とウインクをする。
「…お世辞がお上手ね。」
「お世辞なんかじゃなさ、レディ。だが俺に惚れちぁいけないぜ?」
とウインクをもうひとつ。
「コホンッ!黙ってついて来て。」
「OK、たまにはエスコートされよう。」
グリフィンは笑いながらついて行った。
グリフィンがブルスターの後に続くのを見送りながらファイアハートは微妙に疲れを感じていた。
さっき話していたときはいい奴かなとも思ったが雌猫相手だとどうしてああなるのだろうか?しかもブルースターが心なしか赤面に見えた。
隣にいるグレーストライプも同じことをおもっていたのだろう。
「タイガークローがあったら絶対キレるよ。」
「間違いないね、今日は疲れる夜になりそうだ。」
「「…はぁ~~~~。」」
二匹は大きなため息をついてキャンプに戻った。
そのころサンダー族の縄張りのはずれでは…
「はぁ!イライラするぜ、ここの臭いは。」
一匹はしっぽにくくりつけた刃で地面を引っ掻き、
「キシャシャシャシャ・・・腹減ったな。」
もう一匹は今食い終えたばかりの獲物の骨をしゃぶりながら新たな食料を求めていた。
二つの狂気が少しずつ動き始めていた。