最終決戦前篇
ジンジャーは今、一匹の猫と対峙していた。
後ろ足で立ち、ファイティングポーズをとりながら真剣なまなざしで語りかける。
「あの・・・もうやめませんか?こんな戦い。」
こんな状況では突飛に聞こえるかもしれない。しかし、ジンジャーは極力争いを避けたかった。
「フンッ…!」
向かい合った敵―クラッシュテイルが尻尾の刃を繰り出す。ジンジャーは首をかしげてそれを交わす。
「貴様は戦っているぞ?」
「あなたが戦うからです!」
「ハッハッハ!戦士から戦いをとってなぁにが残る?」
「あなたは戦士として戦っていない!理不尽な暴力を振りまいているだけです!あなたは・・・ただの破壊者だ!」
敵の尻尾を抑えつけたジンジャーの言葉に敵はフンッと鼻を鳴らして答えた。
「破壊者か、イライラがはれるならどっちでも構わん。」
クラッシュテイルは好戦的な表情でジンジャーの左頬を引っ掻いた。ジンジャーは少し下がった後、覚悟を決めたまなざしで告げた。
「分かりました。なら俺は俺の仲間を守るために戦います。」
ジンジャーはそのまま敵の攻撃をかわし、隙あらば思い一撃を敵にはなっていく。
グリフィンほどの速さや手数はないが、彼にはない力と技がジンジャーの売りだ。しかし敵の動きは素早く、かつややトリッキーな動きで応戦してくる。
やや距離をとってお互いの隙を窺う・・・。
「・・・はぁ!」
敵が襲いかかってくる。
「コォォォォ・・・ハァァ」!
ジンジャーは目を閉じ、感覚を研ぎ覚まして位置を正確にとらえ、ヘビーパンチを放った。
この技はジンジャーの得意技だ。
だが、
「シャアア!」
「・・・なにっ!?」
驚いた。あのスピードでは回避不可能のはずなのに。敵はスライディングするように体勢を沈めて交わしたのだ。
「ヒャハハハハ!食らえぇ!!」
「ぐっ・・・!」
敵の尻尾がつきだしたジンジャーの右前脚を切りつけ、腹を引っ掻いた。斬られた脚や腹の毛が赤く染まる。
「止めだ!」
「くっ・・・。」
首を突き刺そうとした一撃を避けきれず、浅くはあるが首筋を切られた。熱い痛みがそれを教えてた。
(くっ・・・・・・強い!)
勢いを増す敵の攻撃に対し、ジンジャーは赤い飛沫を飛ばしながら防戦一方になった。
グリフィンはファイアハート、グレーストライプとともにクローファングと戦っていた。しかし敵のパワーはすさまじく、三対一という状況でも苦戦していた。
「キシャシャシャシャ!」
「うわっ・・・う、ぐ・・・ぁ。」
(いかん!)
ファイアハートが地面に押さえつけられ。首を踏みつけられている。
グリフィンは素早く駆け寄り、ドロップキックを放った。
「大丈夫か?」
「ゲホッ、ゲホッ・・・大丈夫。僕も戦う。僕の仲間を、友達を、家族を守るために!」
ファイアハートが気合を入れなおすと、戦っていたグレーストライプが殴り飛ばされてきた。
「うわっ・・・くぅ、死ねないんだこんなところで!絶対に!」
「そうだ、死ぬわけにはいかない。約束があるからな!」
グリフィンは接近すると、激しい肉弾戦を繰り広げ、敵の片足を抑えつけた。
「おいっ!あんたには誰か愛する人がいるか!?」
「愛する人だと…?」
クローファングがギョロリとこちらを睨む。
「シャシャシャ・・・キシャシャシャシャシャシャシャシャ!・・・ナ~んでだろうな~その言葉を聞いてらやったら腹が減ってきたヨ!」
クローファングが狂気の眼光を光らせてグリフィンを殴り飛ばした。
「・・・・・・予定変更。お前から食ってヤル。」
ファイアハートとグレーストライプがすぐさま間に入るが、アナグマのように暴れる奴を抑えきるには荷が重かった。
(使うなら今だ・・・!)
グリフィンは立ち上がって、両前足を頭の上でクロスさせる。
そしてそれを開きながら腰を落とし、力をためるとそのまま助走をつけて敵に突進した。
ドォン!!
「なっ・・・!」
立ち上がった土煙りの中からグリフィンが飛び出してきた。
「っと、やっぱきついなこの技は。」
元々はジンジャーの技だ。それを見よう見まねで覚え自分風にアレンジした。
ジンジャーいわく、気迫で相手を威圧して、そのすきに突っ込み、最大パワーをたたきこむらしいが・・・。
「キシャシャシャシャ!今のは効いたなぁ・・・。」
土煙りの中からクローファングが出てきた。ふらついてはいるが、ちゃんと立っている。
「そんな・・・。」
「チッ、タフにもほどがあるぜ・・・!」
「キシャシャシャシャ!決めた、決めた。族長の前にお前を食ってやる!」
来るか!グリフィン達は身構えたが、その時予想外のことが起きた。
「キシャシャシャシャ・・・・シャ、ァ?」
不意に赤い飛沫が飛び散った。クローファングは胸から生えた金属片とそれを刺した存在を交互に見ていった。
「あ、兄・・・貴?」
「俺の獲物を横取りするな。」
クラッシュテイルは弟を貫いた刃を強引に引っこ抜き、返り血を浴びた。
「クラッシュテイル!」
「てめえ、なんで弟を!」
「こいつは昔からウザかったからな。」
クラッシュテイルは倒れた弟を見下ろしながら答えた。
「・・・悪魔め。」
視界の隅ににジンジャーが見えた。
息はあるようだが、全身のいたるところから血を流し、さらに角の片方が折れていた。
「てめぇ、よくも相棒を・・・。」
「いい目だ。さあ、もっと楽しませろ!」
最終決戦第二幕が始まる。