運命

 

 

「え、っとあなたは?」

 

ジンジャーはファイティングポーズのまま聞いた。

 

「そう警戒しなくていい。襲いかかる気はないさ。」

 

奇妙な猫はニヒル笑いのままこちらに寄ってきた。年は俺と同じくらいだろうか?

 

「助けていただいたのは感謝します。しかしなぜ?」

 

すると、相手はすっとジンジャーの隣に座り、尻尾を肩に乗せて、抱きよせてきた。

 

 

「え、あの・・・。」

 

「ふふ、綺麗な雌猫を助けるのに、理由がいるかい?」

 

(やばい。やばいやばいやばい。絶対に勘違いしてる!)

 

まあ、彼が間違えても仕方ないだろう。ジンジャーは外見や声のトーンは雌猫に近い。しかし、彼はれっきとした雄猫だ!

…もっとも初対面の者はみんな間違うが。

 

「俺はグリフィン。世界を旅するさすらいの翼猫さ。 名前を、お聞かせいただけるかな?」

 

「え、あ、はい。ジンジャーです。」

 

「ジンジャー、良い名前だ。今夜・・・一緒にいてもいいかい?」

 

グリフィン、と名乗った猫がどこか色気のある甘い視線でこちらを見つめ、顔を近づけてくる。その顔は、普通の雌猫ならこれだけで落とせるだろう。しかし忘れてはいけない。ジンジャーは雄だ。

 

「いや、ちょっ!・・・やめてください!」

 

ジンジャーは顔を思いっきり後ろにそらした。

 

「おっと、こういうのは苦手かな?お気を悪くしないでくれよ、レディ?」

 

顔を離してはくれたが、視線もそのまま、尻尾も肩に置かれたままである。

 

「いや、あの非常に言いにくいんですけどね!」

 

「うん?どうした?」

 

「俺は!雄なんです!」

 

「ほぉ、そうか雄猫か・・・・・・。」

 

一拍の間をおいてグリフィンの表情が凍りついた。

 

「・・・いま、なんと?」

 

「だから、俺は雄なんです。よく間違われるけど。」

 

その言葉を聞くと、グリフィンは表情そのまま尻尾をどけると気まずそうに目をそらした。

 

「いや、その・・・すまない。不快な思いをさせた。」

 

「いっ、いえ!大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけど・・・。」

 

お互い必死に会話をつなげようとしたが、続かない。それ以前にグリフィンはショックで放心状態だ。

 

(不覚だ・・・。この俺が雄と雌を間違えるなんて・・・!)

 

彼自身、町に向かうはずが強風に流されて山に入った挙句、日も暮れたからどっか夜をこすのにいい場所を探していただけなんだが・・・。

しかし久々に会った綺麗な猫が雄でしかも気付かずに口説いてしまった・・・。

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!)

 

 

ジンジャーはただおどおどしていた。

 

(あああ、どうしよう。放心してるよ。でもこのままにしてたら確実にキツネやフクロウの餌食だし・・・。)

 

「えと、夜の山は危険です。とりあえず俺たちのキャンプに来てください。」

 

 

ジンジャーはそのままほっとくわけにもいかず、キャンプに泊めることにした。一応助けてもらったし。

 

・・・もっとも肝心のグリフィンは、ああ・・・。と、虚空を見つめて生返事をしただけだったが。

 

「ほら、いきますよ。」

 

ジンジャーは半ば引きずるように彼を引っ張って行った。

 

しかし彼らはまだ気づいていなかっただろう。

これが運命の出会いだと。この二匹の出会いが、この山の、さらにはまた別の地に住む、別の猫たちをも救うことになるとは。

 

 

まだ、誰も知らなかった。