ジンジャー、本当の願い
ケートスはぼろぼろになってやっと戻ってきた。
ここはコウモリ猫一族のアジト。彼らは空き地ではなく、洞窟の中で暮らしている。
真っ暗なその中をケートスは半ば転がるように進み、族長部屋にたどりついた。
「レ、レギオン様…!」
「戻ったか。ケートス。ああ、結果ならもう聞いている。残念だが仕方ないな。」
レギオンはやけに落ち着いた口調で答える。
「レギオン様!落ち着いている場合ではありません!や、・・・奴は危険すぎます!!」
「じゃあどうしろと?俺たちにせよ、奴らにせよ、雷を放つような奴と戦えるか?」
「そ・・・それは・・・。」
「それに奴らのことだ、無理にでもとめようとするだろう。」
「・・・薄汚い角猫どもが滅ぶのは大いに結構ですが、そのあとは?」
「俺が直々に始末すればいい。」
闇の光る金色の目が一瞬だけ青くなった。
「・・・。・・・・・・・・・・・うん?」
ジンジャーは目を覚ました。
「俺は・・・確かキャンプを飛び出して・・・。」
あたりを見回すと、濃霧が立ち込めて何も見えない。
「・・・あれ、この光景どこかで・・・。」
そしてジンジャーは、ハッと気付いた。
(そうだ、あの夢と同じ光景だ)
俺は叫び疲れて寝ているんだろうか?
そしてもう一つ気がついた。
(待てよ、ここが夢の中だとしたら・・・!)
振り返るとそこには―
・・・。やっぱり。いた。濃霧の中をゆっくり歩み寄ってくる。近づくにつれ、霧は薄まり、その姿を現した。
感情のない金色の瞳、赤き角、やや筋肉質になった肉体。そして、背中から発する黒い殺意のオーラ。
霧の中から現れたのはそう、俺自身だ。
ジンジャーはもう一人の自分に対し身構えた。すると、
「マテ・・・。」
どこからか声が聞こえてきた。低く、暗い声だ。
「ソウミガマエルナ。オマエハオレ。オレハオマエダ。」
その時ジンジャーは気付いた。これはもう一人の自分が発しているのではない。これは―
背中のオーラが話している!!
「なにが、・・・目的なんです?」
ジンジャーがややきつめの口調で尋ねる。
「オレハ、オマエニ『チカラ』ヲサズケニキタ。」
「力?」
「ソウダ。スベテヲコエル、サイキョウノ『チカラ』。・・・ソシテソレヲツカエバ、
トモヲスクウコトモ、ネガイヲカナエルコトモ、デキル。」
オーラはそう告げると、腕を広げていった。
「サア、ウケイレルガイイ・・・。コノ『チカラ』ヲ!!」
ジンジャーは目をつぶって、一度息を吐き、答えた。
「お断りします。」
「ナゼ・・・?」
「コノ『チカラ』ガアレバ、ヤツラヲホロボシ、ヘイワヲモアラスコトガデキルトイウノニ。」
「平和。確かに俺の願いです。しかしあなたが言ったやり方では嘘になるんです。」
「ウソ・・・?」
「俺の本当の願い・・・守りたい未来は角猫だけのものじゃない。『皆』が笑顔で暮らせる未来。」
「だから、滅びの力なんていらない。自分の夢に嘘をつくわけにはいかない!」
「・・・・・・・・。バカナヤツメ。ナラバムリヤリデモトリツクマデ!」
オーラの指示に従って体が動き出す。
「フン!ハァァ!」
襲いかかるパンチを何とか数発かわしたが、
「ハァァ!」
「!ぐはっ!!」
蹴りを入れられて地面を転がる。
「ムダナコトヲ、・・・エクシードニカテルモノカ・・・!」
しかし、ジンジャーは立ち上がった。
「負けるわけにはいかない!俺は―!」
その時彼は気付いた。そうだ。出生など関係ない。一族は、父さんは、俺を息子として扱ってくれた・・・!
「アキラメロ。オマエハ『エクシード』トシテクンリンスルノダ。」
「俺は、俺はエクシードなんかじゃない!」
ジンジャーは言い放つ。
「俺はエクシードではなく、角猫一族のジンジャーだ!」
彼は叫ぶと、迫ってきた相手に、強烈なクロスカウンターを決めた。
「ヌァァァァァァァァァ!!!!!」
オーラが、エクシードの体が光になり、ジンジャーに吸収される。
と、同時に景色も元の森に戻った。ジンジャーは己の拳を見つめて、強く思った。
(この力は呪いだ・・・。でも、この力を、皆の未来を守る為の力に・・・!)