飛べ、未来へ

グリフィンは闇の中にいた。このまま朽ち果てよう。ガラクタの中で彼は目を閉じ、今度こそ消えようとした。

 

 

 

 

だが、それは遮られた。再び、“あの男”によって。

 

「やあ、久しぶりだなグリフィン。」

 

アカツキの声だ。グリフィンはうるさそうに眼を覚ますと、無気力な声で言った。

 

「またあんたか・・・。」

 

「どうした?またこんなところで。」

 

「どうもこうもない。俺は旅をすべきじゃなかった。だから今度こそ消えるんだ。」

 

「ほう、なぜそう思う?」

 

「・・・あんた前会った時去り際になんて言ったかあ覚えてるか?」

 

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『もし、・・・もし君に誰か愛する人ができたら・・・それを守れ。そのために…立ち向かえ。』

 

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「あのときあんたはそう言った。」

「けどな、俺はその愛する人を守れなかった!守る力さえ、・・・身に着けられなかったんだよ!」

 

グリフィンの言葉が怒気を帯びる。

 

「・・・・・・。」

 

「俺と会わなければ彼女は死なずに済んだんだ!」

 

「・・・出会わなければ良かった。・・・本気でそう思ってるのか?」

 

「ああ。そうさ!そうだよ!!」

 

「馬鹿野郎!!!」

 

アカツキがものすごい剣幕で怒った。グリフィンはそれに押されて口をつぐんでしまう。

 

「それじゃあ彼女は何のために命を散らしたんだ!?」

 

「俺をかばったからだよ・・・。だから、俺がいなければ・・・。」

 

「それはちがう。命あるものはやがて皆死ぬ。特に彼女は戦士だ。どこでどうくたばっても彼女の責任だ。」

「彼女は命を捨ててでも君を守ろうとしたんだ。愛する君を。」

 

「・・・・・・。」

 

「彼女の死に顔、忘れたわけではあるまい。」

 

「あたりまえだ!カモミールは最後・・・!笑って・・・いた?」

 

「そうだ。君の無事を彼女は心から喜んでいた。」

「出会わなかったら。彼女はあんな笑顔で死ねなかったのかもしれないぞ。」

 

「・・・・・・。でもやっぱりだめだ。俺が愛されていいはずがないんだよ」

 

「なぜ?」

 

「思い出したんだよ!俺が・・・俺が母さんを殺したんだ!!」

 

殺した。そう、忘れていたことが信じられないほど、はっきり、生々しく。

 

自分に向かってきた散弾を俺は何かの力で跳ね返し、飼い主の父親を肉片に変えた。

 

次に飼い主の母親を殺し、ベランダに追い詰めた飼い主を焼き殺そうとした時、母さんが見えない壁を這って、飼い主を助けた。

しかし、俺は壁を一瞬で溶かしそして、-

 

 

「俺が、俺なんかに愛される資格はない。」

 

俯いてつぶやき続けるグリフィンを見つめながら、アカツキは言った。

 

「そういえば、初めて会った時、俺は君を知らないといったな。」

 

「・・・それがどうした・・・。」

 

「訂正しよう。今思うとあれは正確じゃなった。」

 

「・・・・・・。」

 

「俺の友達の翼猫に伝説好きな奴がいてね。」

 

「いきなりなんだ。」

 

「まあ聞け。彼は旅の途中、ある家で飼われている猫と知り合った。」

「なんでも彼女は昔、ニホンという場所に住んでいたらしいが、飼い主の都合や変わってしまったニホンの景色に飽きたこともあって、出てきたらしい。」

「そしてついには二匹は愛し合ってしまった。」

「だが旅猫の彼はまた旅に出ると言って、再開を約束して去って行った。」

 

「その話がなんだってんだ!」

 

「ところで、彼女には彼にも話していない秘密があった。」

「彼女は“化け猫”という、特殊な力をもった猫、なかでも一番強い“金貨猫”だった。」

 

「そして彼のほうは旅の途中で“超越新種”という最強の生命体の存在を知った。」

「それは猫であって猫でない存在同士、例えば、化け猫と翼猫、角猫とコウモリ猫などの混血に生まれる。という推論も立てていた。」

 

「・・・・・・!」

 

「そう、君はその二匹の息子だ。」

 

「・・・はっ!はは、ははは・・・。」

「ならまして俺はいないほうがいい。」

 

グリフィンがそう言った時だった。

 

「・・・うっ!?」

 

ズキンッ!ット頭痛が走り、一瞬何かが見えた。

 

「なんだ今のは・・・うぅっ!?」

 

さっきよりビジョンがはっきりした。これは・・・だれかと戦っている!?

 

「な、なんなんだこれは。」

 

「今、君の意識はエクシードの力に負け、封じられている。」

 

「な、・・・に・・・?」

 

また見えた。これは…ジンジャーか!?

 

「そして今君を止めようとあの角猫君が必死になって戦っている。同じ定めを負う者として。」

 

「君には、力がある。だが使いこなせなければ君は―。」

 

「やめろっ!!・・・っあぁぁぁ!!」

 

そしてその時だ、一つの声が響いた。

 

(君はまだ君なんだ!だから思い出してくれ!君自身を!!)

 

俺、・・・自身・・・?

 

「お、・・・俺は、俺は!!」

 

「俺はグリフィンだ!この体は俺のものだ!言うことを聞きやがれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

大きく叫んだ。アカツキが寄ってきて、肩をポンッと叩いた。

 

「よくやった。それでこそ、俺の二つ名を継ぐものだ。」

 

「はぁ、はぁ、でも、俺は戻っていいのか?仲間たちに牙を向いた俺を、受け入れてくれえる奴なんて・・。」

 

「そうだな、少なくとも一人はいるぞ。」

 

♪~♪~♪~

 

「!こ、この曲は・・・!!」

 

聞き違えるはずがない。カモミールが吹いていた曲だ。・・・いや、この旋律は彼女じゃない。

 

グリフィンは耳をすませる。

 

「ジンジャー、お前なのか・・・。」

 

「さあ、ここにもう用はないな。」

 

「ああ!俺は生きる!彼女の分まで、犯した罪の分まで!」

 

グリフィンの瞳には光が戻っていた。

 

「・・・最後に聞いていいか?」

 

「ん?」

 

「あんた、もう死んでるだろ。」

 

アカツキは嫌参ったという感じで笑いながら言った。

 

「はっはっは!そう、俺はこの山に来た後、旅に見切りをつけて帰るつもりだったが、鷹にぶつかりそうになって、崖にぶつかって死んでしまったよ。」

 

自分の死にざまをこうも軽く語れるだろうか。彼だからこそできるのだろう。

 

「そうだったのか・・・。」

 

「ああ。さあ行け!彼らが待っている。」

 

「おう!」

 

グリフィンが力強くはばたく。そして少しだけ振り返り思った。

 

(ありがとよ、親父・・・。)

 

 

アカツキの体が光になってゆく。彼もまた、帰るべき場所に戻るのだ。

 

(そうだ、飛べ。二代目さすらいの翼猫。・・・俺の息子よ。)

 

息子の姿を見送りながら、彼は消えていった。