新たな世界へ―縄張りなき看護猫
「じゃあ、いいんだな。」
「はい。両部族はお互い仲良く、困った時は助け合い、対立した時は納得がいくまで話し合う。それが俺の要求です。」
数世代にわたって続いていた戦いは終わった。時間はかかるだろうが、きっと分かり合うことができる。そう信じて。
「欲のない男だなお前は。」
キャンプに戻る途中、バレットに話しかけられた。
「え?」
「副長の話を蹴ったそうだな。」
「・・・はい。」
「なぜだ?やがては族長になれるんだぞ。」
「欲がないとかそういうのじゃなくて・・・。」
「俺が族長になったらきっと、エクシードが生まれやすくなるんじゃないかなって。」
暴走したグリフィンやレギオン、夢で見た自分を思い出しながらジンジャーは言った。足が震えている。
「この力は呪いだよバレット。今こうしている時でさえ、気を抜けばおかしくなりそうなんだ。」
「だから俺は副長にはなれないよ。君のほうがよほど向いてるんじゃないかな?」
「・・・いいだろう。だが俺はお前から譲られてなるんじゃない。どうなっても知らないぞ。」
するとジンジャーは微笑んで言った。
「信じてますよ。・・・バレットの優しさを。」
「フンッ。」
和平を結んでから五日が立った。
♪~♪~
「やあ、グリフィン。どうしたんだい?」
「草笛の練習さ。彼女とな。」
「彼女?」
ジンジャーの問いにグリフィンは胸をトン、トンとたたく。
「そっか。…ねえ、これからあなたはどうするんですか?」
グリフィンは演奏をやめて、言った。
「また旅に出ようと思う。」
「え?」
「いろいろ考えたが、旅をするのは楽しかったしな。一回きりの猫生だ。いろんな物を見て、おきたいんだ。」
「お前はどうする気だ?」
「俺は、・・・そうだな。もっと勉強して苦しんでる人を救いたい・・・かな。」
「ほう、まさに『縄張りなき看護猫』だな。」
「縄張りなき、・・・看護猫?」
「俺がここに来た時言っただろ?『俺はさすらいの翼猫』。だったらお前は、『縄張りなき看護猫』だ。」
「そろそろキャンプに戻ろうぜ。」
「あ、うん。」
(縄張りなき看護猫・・・か。)
そして数日後、グリフィンが旅立った。
「アディオス。ジンジャー、バレット。」
「ええ。またいつか。」
「いつでも来い。歓迎する。」
「ぷ、ははは!」
バレットの言葉を聞いてグリフィンが笑いだした。
「何がおかしい?」
「いや、お前がそんなことを言ってくれるとはな。」
「貴様・・・。」
「ふっ、ありがとうよ。」
「フンッ。」
二匹のやり取りにジンジャーは微笑みながら言った。
「ありがとうグリフィン。会えてよかったです。ほんとに。」
「ああ。俺もあえてよかったよ。ほんとにいつか・・・またな!!」
グリフィンが飛び立っていく。苦しみを乗り越えたその姿は最初見たときよりも大きく感じた。
「行ったな。」
「ええ。」
「どうするんだ?お前は。」
「・・・バレット、俺―。」
そして、最後の一人の旅立ちの時。
「ジンジャー。」
看護部屋にバレットが入ってきた。折れた角もまた伸びたようだ。
「やあ、バレット。怪我でも?」
「違う。餞別だ。」
そう言って何かを落とした。つたでできた・・・なんだ?
「お前のことだ。皿と青汁は持って行くんだろ?これを使え。」
ああ、なるほど。確かにこれなら持ち運びに苦労しないな。
「ありがとう。それじゃあ、行ってきます。」
部族のみんなに別れを言いながら、キャンプを出た。しかしさびしくはない。いつでも帰れる場所があるから。
こうして、縄張りなき看護猫の旅は始まった。彼のその後は、また別の物語。