悪霊

 

「そういやさ、昨日戦ってたあいつ等は何なんだ?」

 

「ああ、それは・・・ちょっと長くなりますよ?」

 

「ああ、構わん。」

 

 

朝食をとっていた時のことである。グリフィンの問いにジンジャーは答えた。

 

「彼らはコウモリ猫一族。通称バット。この山は先祖代々角猫とコウモリ猫が争っているんです。」

 

「僕たちは普通の猫に比べて数が少ないですからね。お互い少しでも広い縄張りが欲しいんです。」

「しかし、最近になって戦況が一転しました。」

 

「ほう、なぜだ?」

 

「新しいリーダーが現れたんです。そのコウモリ猫は翼が異様に大きくて飛べるんです。そいつの奇襲で副長がやられてしまって・・・後任に出来る年長の戦士も、もう居ないし、今は父さんが一人で頑張ってます。」

「あなたも早くここを出たほうがいいですよ。これは角猫とバットの問題。あなたを巻き込むわけにはいきません。」

 

「ああ、しかし・・・。」

 

「!危ないっ!!」

 

ジンジャーが突如、グリフィンを突き飛ばした。そのすぐ上を黒い何かが通りすぎていく。

 

「っ!なんだあいつっ!!」

「・・・さっき話した奴ですよ。バットのリーダー、レギオン・・・!」

 

「レギオン・・・悪霊、か・・・。」

 

 

キャンプは再び戦場になった。戦力不足の角猫一族は長老や見習いまで最前線で戦っていた。

 

ジンジャーは襲い来る敵をいなし、殴りつけ、バレットはその名の通り弾丸のごとき速さで手刀を繰り出し、角で頭突きを放っている。グリフィン乱戦の中、一匹の雌猫に背後から襲いかかろうとしていたコウモリ猫を蹴り飛ばした。

 

「大丈夫かいレディ?」

 

雌猫は素早くグリフィンに飛びかかろうとした一匹を堀に投げ飛ばした。

 

「これで借りは返したわ。」

 

雌猫、カモミールは言った。

 

「何も貸し借りなんて考えてないさ。」

 

「そ、あとあたしを口説くならもっと腕を上げてからにしなさい。」

カモミールは背後の二匹に裏拳を入れ、振り向きざまに引っ掻き倒した。

 

「あたし、自分より弱い雄猫、嫌いだから。」

 

彼女はそっけなく言うと戦場の奥に進んでいった。残されたグリフィンは敵と戦いながら言った。

 

「ふぅ・・・・・・つれねぇな。」

 

 

 

別の場所ではバレットがケートス戦っていた。

 

(目標は族長同様突然変異種。音波攻撃をしかけてくる。ならば・・・!)

 

彼は冷静に敵を分析する。

そして効果的な戦法を選んだ。バレットは左右にジャンプを繰り返して狙いを定めさせず、接近する。

 

(ここは俺の距離だ・・・!)

 

懐に潜り込み、ガトリングガンのごとく手刀を繰り出す。

 

(やはり・・・。)

 

敵は遠距離子撃専門で格闘は得意ではないらしい。そんな敵にこの蒼い魔弾を捉えるのは不可能だった。

 

「・・・絶望の果てに行け・・・。」

止めの一撃を放った後、後ろを向いてそう告げた。

 

 

 

ジンジャーはレギオンと戦っていたが、空中からヒットアンドアウェイで襲いかかる敵に苦戦していた。

 

(こうなったら、降りてきたところを狙って・・・!)

 

目を閉じ、精神を統一。感覚を研ぎ澄ます。敵の羽根が空気を切って接近してくるの正確に聞き取り、鼻で敵の匂いをかぎ取る。

 

「コォォォォ・・・はっ!」

 

開眼と同時に繰り出された拳は正確に敵の顔面を捉えた。これぞ、彼の得意技、「ブレイクパンチ」である。

 

「ぐはぁ!」

 

地面に落ちた敵を逃がさず二発目を放ち、勝負を決する。

「潮時だな。そして・・・なるほど。報告通り例の猫にそっくりだな。」

 

レギオンの視線はグリフィンに向けられていた。

 

「!おいっ!今何て!?」

「撤収だ。」

 

レギオンが飛んで離脱する。グリフィンが追いかけようとしたが、ケートスの放った音波の矢がそれを阻んだ。

 

「・・・。くそ、やっと手がかりをつかんだってのに!」

グリフィンが腹ただしげに地面を殴る。

 

「グリフィン・・・?」

「ジンジャー、もう俺は無関係じゃなさそうだ。奴はひょっとしたら俺の記憶のカギをもってるかもしれない・・・!」

 

「っ!・・・。」

二匹が出会って最初の朝のことだった。