願い

 

グリフィンがキャンプにしばらく居座るようになってから数日後。

 

「はっ!」

 

ジンジャーは今、バレットとトレーニングをしている。二匹は昔から早起きで、朝には訓練をしているのだ。

 

「フッ!ハッ!」

「くっ!」

 

バレットの攻撃は重さはさほどないが、手数があり、正確だ。

ジンジャーは顔を下げて手刀を交わし、腹を殴って飛ばす。バレットは地面を少し転がったがひるまず反撃に出る。

 

「ブレイクパンチ!」

「・・・・はぁ!」

ジンジャーが必殺のパンチを繰り出し、バレットもアッパーを繰り出した。

 

刹那、

 

「「・・・・・・・・。」」

 

お互いの顔面に入る寸前で技を止めた両者がいた。

 

「薬草学の勉強もあるし、今日はこのくらいにしよう。付き合ってくれてありがとう。」

 

「問題ない。」

バレットは無愛想に答えて森の奥に進んでいった。

多分この先の滝でまたいつもどおり瞑想してくるんだろう。

 

ジンジャーが薬草学を習い始めたのはほんの数ヶ月ほど前だ。

それまで父の後を継げるようになればいいと思って生きていたが、怪我の手当てを受けた時初めて本当にしたいことはんなんだろうと思った。

姉のカモミールはバカなことは言うなと反対したし、父も渋々顔で、バレットは例によって何も言わなかった。

 

しかし、本当にこれでいいんだろうか?ときどきそう思う。

戦況は苦しいし、副長がいない今、俺だけ自分の勝手な都合のまま生きていていいんだろうか?・・・俺は何がしたいんだ?

 

答えは一向に出なかった。

 

 

 

グリフィンは少しボーっとしていた。自分の過去がわかるかもしれないということもあるが、問題はそれじゃない。

 

(・・・綺麗だった。)

彼の脳裏から、昨日のカモミールの勇ましく闘う姿が離れない。グリフィン自信、今の感情に少し戸惑っていた。

 

なぜなら彼は誰かを口説くことはあっても、自分から惚れたことはなかったのだから。

 

「グリフィン!聞いてるんですか!?」

不意に声がした。

 

「うぉあ!?いたのかジンジャー!?」

「だいぶ前から呼んでたんですけど…。」

「悪い、悪い。で、なんだ?」

「いや、あなたにもどうかなって。」

 

するとジンジャーが皿に注いだ液体を勧めてきた。

 

「ん?なんだこりゃ?」

「青汁です!とっても栄養があるんですよ?なんでもまず健康第一ですからね!」

「ん、ああ。じゃあ一杯。」

 

グリフィンはそれを受け取ると口に含み、

「ブゥゥゥゥゥ!」

「うわっ!?」

 

すさまじい勢いで噴き出した。

「もう、きったないなぁ!もったいないじゃないですか!」

ジンジャーが激怒している。

「いやっ、おい。・・・何とも思はないのか?これ飲んで?」

「えぇーおいしいじゃないですか!」

 

(・・・こいつ、味音痴か・・・?)

 

「てか、どっから持ってきたんだよこんなもん?」

「看護部屋ですよ?」

「?怪我でもしたのか?」

「いえとくに、まあ俺看護猫ですし。」

「・・・は?・・・え?」

「俺、戦士と看護猫兼任なんですよ。これは師匠からのお勧めです。」

「そうか・・・俺は今後遠慮しとく。」

 

グリフィンがいまだ舌に残る不味さに顔をゆがめて答えたとき、バレットが戻ってきた。

二匹は笑いかけたが、本人は相変わらず無愛想で、こちらチラッと見るとそのまま部屋に戻って行った。

 

最初は怒ってるのかと思ったが、この数日で気付いた。彼はあれで普通なのだ、と。

 

「あ、バレットにも勧めよ。」

ジンジャーが皿をもって戦士部屋に入って行った。

(・・・ご愁傷さまだな。バレット。)

 

 

バレットは皿を少し見た。健康管理は確かに大切だ。多少見た目は悪いが効果は関係ない。彼はそれを飲み干した。

 

「・・・・・・不味い。」

 

戦士部屋の中で一人つぶやいた。