旅立ち
―風の向こうの広がる未来
「これでおれたちの役目は終わったのか?」
「ああ、スター族の代表として、心から礼を言う。」
今、グリフィンとジンジャーは再び夢でメテオスターに会っていた。彼も戦いを終えたばかりなのだろう。
前会った時よりも少し薄汚れていたが、彼の持つ気品や雰囲気のせいか、美しさは変わらなかった。
「・・・なあ、一つ聞いていいか?」
「なんだ、若き獅子鷲よ。」
「クラッシュテイルのことだ。あいつの胸、あのクリスタル見たいのは何だ?」
メテオスターはしばらく考えた後答えた。
「いいだろう。しかしそのためには少し場所を移そう。」
メテオスターが前足を掲げると、目の前に突然明るい光が現れ、目をつぶった。そしてゆっくりそれを開けると、目の前に神秘的な光を放つ岩があった。
「ここはハイストーンズ。族長や看護猫が我らと交信する聖地。そしてこの月の石こそ我らと彼らをつなぐものなり。」
「・・・すごい。ここが・・・。」
ジンジャーがあたりを見回す。
「OK、Mr、ロマンチックな場所だ。・・・じゃあ、話してくれ。」
「うむ、かつて、一匹のシャドウ族の戦士がいた。」
すると、また氷のスクリーンが現れ、映像を映し出す。月の石に鼻を押しつけて眠る猫の隣、おそらく護衛であろう猫にズームがかかる。
「この時この猫は父親になったばかりだった。」
「彼は息子を一族、いや森で最強の戦士にしたかった。そして一つの愚かなことをしでかしたのだ。」
「愚かな、こと?」
すると映像の中の猫が慎重に立ち上がり、月の石のかけらを拾い上げた。
「かけらを!」
「神聖なる月の石のかけらを身に着けていれば、我らの加護を受けれると思ったのだろう。彼はそれをもちかえり、息子の体に埋め込んだ。」
「・・・それであんたらが天罰を下したのかい?」
グリフィンの問いにメテオスターはかぶりを振った。
「いや、我らに天罰など起こせん。起こせるとしたらそれはまさに神といえる存在の身だ。・・・下の者たちはそれを我らのせい、と捉えているようだが。」
「そもそも、この月の石自体作ったのは神であって我らではない。だから今回のような場合どうなるかは私も予想がつかぬのだ。」
「じゃあ、やつは―。」
「うむ、埋め込まれた月の石は彼の心のリミッターを外した。結果もともと以上を抱えていた彼の心は完全に狂ってしまったのだ。」
「その結果があれか・・・。」
「ああ、しかし元は事態を収拾できなかった私の責任だ。すまなかったな。」
メテオスターが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいんですよ。ただ―。」
「ただ―?」
「あの二匹の魂はどうなるんですか?」
ジンジャーの問いにメテオスターは慈愛に満ちた優しい笑顔で答えた。
「我らの仲間にする。」
「あれだけの大罪を犯したのにか?」
「罪を犯せば我らのもとに行けないのではない。我らへの仲間入りを拒んだものがスター族にいないのだ。」
「どんなものも間違うのだ。せめて生前の間違いだけでも許してやろうと私は思う。」
「罪を憎んで猫を憎まず。彼らが拒まなければ、彼らを向かい入れよう。」
「全てのの猫を見守り、許す者。それが、あんた達か。」
メテオスターは慈愛をたたえた優しい眼差しで頷いた。
「もうじき夜が明ける。今後の旅、貴公らに死凶星が落ちんことを。」
「ははは、あなた達が星なんでしょう?」
「むっ、ふふ、そうであったな。」
「もう時間だ。さらばだ。さすらいの翼猫、縄張りなき看護猫よ。」
「ああ、じゃあな。星を統べる者、メテオスター。」
ハイストーンズが光に包まれていった。
「「ええっー!今日森を発つ!?」」
ファイアハートとグレーストライプは絶叫を上げた。
「ああ、俺は旅猫。また旅に出る。」
「俺もいい加減里帰りしないとだめですし。」
最終決戦から二日後のことである。グリフィンとジンジャーが森を発つと言い出したのだ。
「もうブルースターにも話をつけてきた。今日の日暮には出る。」
「でも、君はともかくジンジャーは・・・。」
そう、ジンジャーはまだ怪我が治っておらず、まだクモの巣を巻いている。
「大丈夫ですよ。俺も直りは早いほうだし、何かあった時は自分でなんとかできます。」
自信たっぷりに胸をたたくジンジャー
「なんというか・・・タフだね。君も。」
「鍛えてますから!」
鍛えれば何とかなるのか?という疑問はさておき、いざ言われるとさびしいものである。
「さびしくなるな。」
「そう思ってくれれば幸いだ。」
4匹最後のグルーミングを過ごした。
そしてついに、旅立つ時がやってきた。場所はサニングロックス。ここからすべてが始まったんだ。ファイアハートは思った。
「それじゃあ、お先に失礼します。」
「元気でな、ジンジャー。」
「はい、気が向いたら角猫一族の山にも来てください。歓迎しますよ。青汁も御馳走しますし。」
「ああ、覚えとく。それと青汁は遠慮する。」
ジンジャーはグリフィンにそう告げると、今度はファイアハートたちのほうを向いて行った。
「ファイアハート、グレーストライプ。別れ際にこんなことを言うのもなんですけど、大事なことです。聞いてください。」
「今後あなたたちに大きな災いが降りかかる。そんな気がします。でも大丈夫。あなたたちが信じてきたものを忘れなければ、きっと乗り越えられる。」
「もし迷ったら、その時は自分の心と話してみてください。」
「心と?」
「はい。自分のことを一番知ってるのは自分しかいません。心を鍛えていれば自分に負けることだけはありません。」
真剣な眼差しで告げると、そこからはいつもの笑顔に戻って言った。
「あなたたちに会えて良かったです。ほんとに。いつかまた逢う日まで。」
“縄張りなき看護猫”ジンジャーはそう言って荷物を背負い名をし、笑顔で旅立っていった。彼はきっとこれからも多くの人たちを笑顔にするんだろう。
「さて、俺もそろそろ行くか。」
「グリフィン。ありがとういろいろと。」
「フッ、こっちもいろいろ世話をかけたな。」
「・・・。ジンジャーが言ってたこと、ほんとだぜ。」
「だが心配はいらねぇ。お前らはそんな災いに屈するようなヤワな奴じゃない。」
「いいか、覚えとけ。愛する者を守れ。そのために立ち向かえ。そして・・・愛してくれた人を忘れるな。」
「ああ!分かってる!」
「守るべきものは決まってるからな。」
「そのいきだ。」
グリフィンが飛び立とうとした時だ。
「グリフィン!」
マンティスポーが走ってきた。
「マンティスポー!」
「ほんとに…ほんとにいっちゃうの?」
「ああ、俺はさすらいの翼猫。旅こそが俺の本当のすみかだからな。」
「・・・もう、会えないの?」
うつむいたまま言う彼女にグリフィンは優しく語りかけた。
「いいか、マンティスポー。果てしなく広いがしっかり世界はつながってる。俺の旅に終わりはない。旅の中に夢がある限りな。お前に夢はあるか?」
「・・・あたしは立派な戦士になる。グリフィンやジンジャーみたいにみんなを守れる強くて立派な戦士に。」
しっかりとした口調で言った彼女にグリフィンは安心したようだった。
「ならその夢をかなえろ。・・・そうだ、いつか俺がまたここに来るまでの間に一つ課題を出しておこう。」
グリフィンはそう言うと、草笛を作って彼女に渡した。
「俺がまた来るまでの間にもっと草笛をうまくなっておくこと。そして、俺が見とれるくらいいい女になっておくことだ。」
グリフィンはマンティスポーの額に鼻を押し付けると僕たちに向き直った。
「さて、いい風も吹いてきたし、俺も行くとするか。」
「元気でなグリフィン。」
「また会えるかい?」
「ああ、俺たちの道がまた交わればな。」
「アディオス。星の森のウォーリアーズ。」
「また会おう。さすらいの翼猫。」
“さすらいの翼猫”グリフィン。夕日とともに現れた彼は、また夕日とともに消えていった。
その時の大きな彼の後姿。僕はいつか超えられるだろうか?いや、越えよう。また逢った時、誇れるように。
風の向こうに広がる未来。それを信じて。