予言
「自分で獲物を捕まえらる年齢の者は全員、このハイロックの下に集合しなさい。一族の集会をはじめます。」
ブルースターが澄んだ声で呼びかける。
ファイアハートはグレーストライプとサンドストームの間に座った。
「みんな揃ったようね。まずはタイガークロー、捜索ごくろうさま。そのことも含めて話があるの。」
帰ってきたばかりの副長に声をかけた後、ブルースターが言った。
「今日、マンティスキットがキャンプから失踪し、ファイアハートとグレーストライプが発見しました。」
「また、その際に前回の集会時に話した予言と関係のありそうな猫と出会ったのです。」
一族がざわつき始める。ブルースターは尻尾でそれを制し続ける。
「来て、グリフィン。」
ブルースターの隣にグリフィンが座る。
「ねえ、あの猫の…あれはいったいどうなってるの!?」
サンドストームが驚きの声で聞いてきた。
「生まれつきなんだってさ。」
「そんなことが…。」
「しっ!ブルースターがしゃべるよ。」
「この猫は鷹に襲われていたマンティスキットを救い出してくれました。」
ブルースターがしゃべる中、俺は一族を一眺めする。なるほど、やっぱ雄が多いな。だがどの雌猫綺麗だ。だがその時だ、ブルースターが予想外のことを言ったのだ。
「私はこの猫が予言の猫で間違いないと思います。よってしばらくの間ここにいてもらおうと思います。」
「ウェイトだレディ。予言って何のことだい?」
「ごめんなさい。まだ話してなかったわね。」
ブルースターは一度切ってから続ける。
「少し前に一族にこんな予言があったの。」
「“狂気が森に襲いかかる。翼を探せ。”って。」
俺は少し頭を整理していった。
「つまり何だ、スター族が救世主として俺に白刃のアローを立てたってことかい?」
「しらはの……?まあ、そんなところよ。」
言葉の意味がわかってるかはさておき俺は言った。
「よしてくれよ、俺は救世主なんて柄じゃない。ただのさすらいだ。」
「でも可能性はあるわ。美人の頼みは断れないんでしょう?」
俺は苦笑して答えた。
「OK、レディ。そのとおりだ。」
話がまとまりそうになったその時だ。
「ちょっと待ってください族長。こんな貧弱羽根付きを部族に入れてどうするんですか。」
タイガークローだ。
「おいおい、見た目で決めつけるのはよくないぜサブリーダー.クロー。」
「変なあだ名をつけるな。自分の身も守れないような奴に居座られても困るんだよ。」
「OK、もっともだ、だが旅をしてるからにはそれなりに修羅場はくぐってるぜ。それもあんたより厳しいのをな。」
「フンっ!どうだかな。」
タイガークローは明らかに挑戦を申し込んでしている。
「ふぅ~…OK、Mr。相手になろう。それと覚えとけ。“誰にでも咬みつくやつは長生きできない”ってな!」
グリフィンはハイロックから飛び降りた。
「さぁて、往生しな?」
ファイアハートは息をのんだ。あの翼猫は余裕をかましているが、あのタイガークローとまともに闘えるはずがない。
「往生するのは貴様だ!」
タイガークローがその大きな腕を振り下ろす。危ない!
だが次の瞬間ファイアハート歯目を疑った。グリフィンが素早い身のこなしでそれをかわし、隙の出来た胴に二連打を見舞ったのだ。その後もかわし、打ち込むのヒットアンドアウェイを繰り返す。
業を煮やしたタイガクローが地面を蹴って、飛びかかるとバックステップでかわし、ニヒル笑いとともに後ろ足で立ち上がる。
「そろそろ本気出そうぜ?」
それはタイガークローの低くないプライドを傷つけた。
「貴様ァァァァ!」
怒ったタイガークローは歯ぎしりをし、パンチを繰り出す。
バシッ!
しかし裂帛(れっぱく)を込めた拳をグリフィンは難なく受け止めた。
「ふぅん、いいパンチだ。だが!」
グリフィンは素早く後ろを向いて蹴りを繰り出す。
「ぐはっ!」
まともに受けたタイガークローが地面倒れる。
「俺はもっといいパンチを知ってるぜ。」
グリフィンは余裕を崩さない。
「くそっ…!」
タイガークローが再び飛びかかるが、今度は飛んでかわした。そしてそのまま急降下し、両足キックを放とうとする。
しかし、グリフィンはそれを決めず、タイガークローの前に着地した。
「この勝負俺の負けだな。」
ファイアハートは耳を疑った。あれほど優位に立っていたのになぜ負けなのだろう。
「勝負はフェアじゃないとな。飛んだ俺の反則負けさ。」
「……チッ。」
タイガークローは面白くないといった様子でそっぽを向く。
「まあ、俺の実力はこれで解かったかな。しばらく厄介になる。」
グリフィンが一族にお辞儀をした。どうやら僕たちはとんでもない奴を連れ込んじゃったようだ。
とんだ騒がしい集会の後、グリフィンは戦士部屋に案内される途中で一匹の雌猫、いや母猫が困っているのを見つけた。
グリフィンはファイアハート達に先に行っててくれと言うと、母猫に向かって言った。
「どうしましたレディ?」
「ああ、あなたは…いや子猫たちがなかなか寝付かなくて…こらっ!クラウドキット、マンティスキット!いい加減寝なさい!」
母猫、ブリンドルフェイスは子猫達を叱りつけた。
「ああ、それならレディ、俺にお任せを。」
「え?何を…?」
グリフィンが部屋に入ると子猫たちがまた騒ぎ始めた。
「あ、グリフィンだ!」
「今までどこ旅してたの!」
「ねえ!飛べるの飛べるの!」
グリフィンはそれらをしっぽで制して言った。
「やあ、リトルボーイズアンドガールズ。もちろん飛べるさ。旅の話をしてやりたいが今日はもう遅い。面白いものを見したるからちゃんとおねんねしな。」
そう言ってグリフィンはどこからか取り出した木の葉で草笛を作り、吹いて聞かせた。かつて出会った角猫一族に伝わる子守り歌だ。
数分後子猫たちは安らかな寝息を立てていた。
「すごいじゃない!ありがとう。」
「ふっ、良い眠りを。」
ブリンドルフェイスと子猫たちにウインクをしグリフィンは寝床に向かった。