縄張りなき看護猫

 

日がすっかり落ちたころ、グリフィンはキャンプに戻ってきた。ハイロックに集まったみんなの視線に対し、彼はただ首を横に振った。

 

「すみません、俺がもっと早く駆けつけていたら…。」

 

グリフィンはうつむいたまま言った。ファイアハートは保育部屋の子猫たち以外で自分に親しくしてくれた数少ない猫だ。

なぜもっと早く駆けつけられなかったのだろう?自責の念を感じずにはいられない。

 

「グリフィン、あなたのせいじゃないわ。そう、あなたのせいじゃ…。」

 

答えたブルースターもまた、下を向いたままだった。無理もない。自らが見込み、指導した猫だ。部族の中でもとりわけ思い入れがあったに違いない。

 

「……また一人、勇敢な戦士が死んでしまいました。しかし、彼の死を無駄にしないためのも我々はこの脅威に打ち勝たねばなりません…。」

 

悲しみに暮れる部族を一括するようにブルースターは言い放った。

 

(強い人だ。自分もとても辛いってのに…)

 

「敵の正体をつかまねば、タイガークロー、知ってることを全て話して。」

 

「いや、待ってくれブルースターそいつらのことならあたしやコイツのほうが詳しい。」

 

意外な猫が口を開いた。イエローファングとブロークンテイルだ。

 

「どういうことかしら?イエローファング。」

 

「どうもこうもない、奴らはもともと俺の部下だからな。」

 

「ラギットスターがあいつらを戦士にしなかったのがわかるよ。あんたのせいですべてぶち壊しだけどね」

 

イエローファングが盲目の捕虜をにらむ。

 

「…詳しく話してちょうだい。」

 

ブロークンテイルが尻尾でさっとイエローファングを指す。お前が言えと言いたいんだろう。

 

「あの子たちは森が生んだ最強にして最狂の兄弟…クラッシュテイルとクローファングだ。」

 

イエローファングが話し出す。

 

「あの子たちの親は早くに死んだ。だが子猫のころからあの二匹は異常だった。」

 

「最初に兄、クラッシュテイルから話そう。奴が危険な理由…それは殺しを遊びとしかとらえていないってことさ。」

 

「あいつは常にイライラと破壊衝動に捕らわれているからな。」

ブロークンテイルが割り込む。

 

「ああ、そして暴れる以外の解消法を受け付けない。先輩や副長、族長、子猫にまで襲いかかるような奴だ。」

 

「キレたあいつは俺でもとめられない。」

 

ブロークンテイルがにやけながらいった。

 

「次に弟、クローファングだ、この子は兄貴以上に狂ってる。」

 

「いや、ある意味純粋だと思うぞ。最も自然な行動をしてるからな。」

 

「最も自然な行動…?」

 

ブルースターが尋ねる。

 

「ああ、簡単にいえばあいつは俺を含め、自分と兄以外をニクとしか見ていない。」

 

その瞬間、ブルースター戦慄(せんりつ)を覚えた。

 

「まさか…。」

 

ブロークンテイルは残忍な笑みとともい言った。

 

「そうさ…あいつは猫だって平気で食う。」

 



 

 

(ファイアハート、ファイアハート…)

 

「うぅ…スポッティドリーフ・・・。」

 

鈍い痛みを感じながら、ファイアハートは目覚めた。

 

「うん?…ここは…僕は確か川にたたき落とさせて…。」

 

どうやら古いアナグマの巣のようだ。しかし自分の足元には苔のベットが敷かれ、中も妙にかたずいている。

鳥のさえずりから時間帯は朝だろう。

 

「どこだここは?」

 

ファイアハートは警戒しながらあたりを見回す。

 

「ああっー!起きたんですね!良かった~。」

 

急に場違いの明るい声が聞こえた。入口に目を向けると一匹の綺麗な三毛猫が薬草を加えている。

 

(あの猫が助けてくれたのか?)

 

 

ファイアハートは首を横に振った。三毛猫の姿を見てスポッティドリーフを重ねてしまったからだ。

 

「いや~良かったですよほんと。一時はどうなるかと思いましたよ。」

三毛猫が笑顔で近づいてくる。すごく綺麗だがよく見たら雄だった。さらに驚いたことに額に牛のような角があるではないか!

 

「きっ…君は…」

 

「申し遅れました。俺、ジンジャーっていいます。この先の山に住む“角猫一族”出身の旅猫で、またの名を“縄張りなき看護猫”です!!」