死
スクワーレルフライトはリーフプールが戻ってこないことを不思議に思いながらも、ホワイトスレットと戦っていた。
鼻を傷つけられたのが原因なのかは分からないが、ホワイトスレットの動きはあきらかににぶくなっていた。
それに気づいた猫たちはますます活気付き、勇んで白い巨体へ攻撃していった。
ホワイトスレットの体のあちこちから血が出ていた。
戦いの流れがこちらへかたむいてきたようだ。
スクワーレルフライトはホワイトスレットのつぶされていない方の目をねらおうと、頭の上へのぼり、爪を出した。
しかし、鈍くなったとはいえ、弱ってはいなかった。
ホワイトスレットの前足が、スクワーレルフライトをかきおとした。
スクワーレルフライトは着地し、改めてホワイトスレットの強さをかみ締めていた。
あれだけ傷ついているのに、何故倒れないの?
スクワーレルフライトがもう一度ホワイトスレットへ攻撃するタイミングを見ていると、後ろの壁から猫が入ってきた。
リーフプールだ。
「リーフプール! 何処に行ってたの? 心配したのよ」
スクワーレルフライトはそういった。
そして、リーフプールの後ろから入ってきた猫たちに気づいた。
「心配かけてごめんなさい。他の部族の助けを呼んで、そのあとレイヴンポーとバーリーを呼んだの。助けは少しでも多いほうがいいと思って」
リーフプールは巨大化したホワイトスレットを横目に見ながら答えた。
「やあ、スクワーレルフライト」
レイヴンポーが声をかけてきた。
「僕がサンダー族の役に立てるなら、喜んで強力するよ」
バーリーは横でホワイトスレットを凝視していた。
「ありがとうございます、レイヴンポー」
「あの怪物を倒すんだね?」
レイヴンポーはそういうと、バーリーとともに駆け出した。
「ホワイトスレットに少しダメージを入れさせられたの? 少し動きが鈍くなってるわね」
リーフプールがそう聞いてきた。
スクワーレルフライトはうなずいた。
「ええ。ブランブルクローが鼻を攻撃したら、雰囲気が変わって、ダメージを受けたようになったわ」
「じゃあ、これを期にがんばらないと」
「うん。あ、でも、リーフプールは看護猫だから、あまり無理しないで」
リーフプールは少し笑った。
「ありがとう。でも、私も戦うわ。森の猫だもの」
スクワーレルフライトも少し笑い、ホワイトスレットへ攻撃を開始しようとした。
今ホワイトスレットは猫におおわれている。
懸命に振り落とそうとしているが、猫たちは爪を食い込ませなかなか離れない。
ホワイトスレットが吼え声を上げた。
しかし、今度のものはさっきまでのより若干弱まっていた。
ホワイトスレットは確実にダメージを受けている。
勝てるのかもしれない!
スクワーレルフライトは天を仰いだ。
森の猫たちは、全員が力をあわせています。
スター族さま。力をお貸しください。
そして、スクワーレルフライトはホワイトスレットの体へ突進した。
ねらうは首だ。
ジャンプし、ホワイトスレットの肩辺りにしがみついた。
そこからよじ登り、耳の後ろを噛み付いた。このあたりは毛も薄く、皮膚も薄いから、攻撃しやすいだろう。
思ったとおり、スクワーレルフライトの爪はホワイトスレットの皮膚に食い込み、長くひきさいた。
血が出る。
そこをさらに攻撃しようとしたとき、メキメキと何かが裂けるような音がした。
スクワーレルフライトは特に気にせず、歯をむきだした。
そのとき、スクワーレルフライトの周りに影ができた。
見上げると、黒いものが倒れこんできていた。
スクワーレルフライトはそれが落ちてくるのをぼんやりとながめていた。
それは、ホワイトスレットの背中へ深く食い込み、ホワイトスレットを押し倒した。
スクワーレルフライトはホワイトスレットから飛び降り、地面へ着地した。
今倒れてきたのは木だ。
キャンプの横にあった大きな大木。それが根元から裂けたらしい。
ホワイトスレットはその木から逃れようと動いたが、木はあまりにも大きく、逃れられなかった。
まわりの猫たちはその光景を唖然と見ていた。
勝ったのか?
ホワイトスレットがぱたりと動かなくなったのを見て、猫たちは顔を見合わせた。
ホワイトスレットの黄色い目がカッと開かれた。
そして、大勢の猫たちが見ている中で、その眼はゆっくりと閉じられた。
ホワイトスレットは死んだ。
ホワイトスレットが死んだ後も、猫たちは動かなかった。
まだ、信じられなかったからだ。動けばホワイトスレットを刺激し、生き返るかもしれない。
スクワーレルフライトもまた、動かなかった。
しばらく固まっていると、どこからともなく雄たけびが響きわたった。
それに続けて、他の猫たちもようやく勝ったのだと我に返り、雄たけびにくわわった。
猫たちの声は、血だらけの壊れたキャンプで朗々と響いた。