最初の被害者
リーフプールは驚愕した。
リーフプールのそばには、スクワーレルフライトとニコルがいた。
今、スクワーレルフライトに勧められ、ニコルの歌を聴いたところだった。
「すごいわ。とてもきれいな声」
リーフプールは感想を述べた。
「たいしたことじゃないよ。スクワーレルフライト、あまりおおごとにしないでくれ。恥ずかしいよ」
ニコルがリーフプールに答えたあと、スクワーレルフライトに向けていった。
「だって、あなたの歌すごいんだもの!」
「私もすごいと思う!! とってもきれいな声をしてるのね」
ソーレルテイルも褒めた。
「はじめて聞いたわ。あなたの国の文化なの?」
「いや。本当は猫は歌わないんだけども。人間が歌ってるのをきいて好きになったんだ」
ニコルが答えると、ソーレルテイルがいぶかしげに聞き返した。
「ニンゲン?」
「あの、二本の足で歩く生き物だよ」
「ああ。〈二本足〉のことね」
ソーレルテイルはそういうと、首をかしげた。
「〈二本足〉がそんな文化をもってるなんて、知らなかったわ」
ニコルがいう。
「歌っていると、とても幸せな気分になるんだ」
「聞いているほうも幸せな気分になるわ」
リーフプールがいった。
スクワーレルフライトがいった。
「あなたのその歌は、あなたの才能ね!」
ニコルを三匹が褒めつくしていると、キャンプの入り口からグレーストライプが駆けてきた。
そのようすが、ただごとではなかった。
「ファイヤスター! ファイヤスター! いるか!?」
そういうときょろきょろキャンプ内を見まわした。
「族長なら、部屋にいらっしゃいます」
見習い猫のシルバーポーがグレーストライプに教えた。
「ありがとう!」
そういうと、グレーストライプは部屋へ走っていった。
そのようすがただごとではなかったので、スクワーレルフライトとリーフプールとソーレルテイルははじかれるように立ち上がった。
ニコルはきょとんとしている。
「どうしたんだい? なにかあった?」
ニコルがきいた。
「何かが起こったんだわ。きっとよくないことよ」
ソーレルテイルがこたえた。
リーフプールはスクワーレルフライトと目を合わせた。
ことが思ったより早く起こったのかもしれない。
スクワーレルフライトも不安そうな顔をしていた。
ファイヤスターが部屋から走り出てきた。
「ダストペルト、ブラクンファー、ブルーストーム!」
「三匹はグレーストライプについて湖のほとりまで行ってきてくれ! 訳は行き道でグレーストライプにきけ」
ファイヤスターは三匹にそう指示し、グレーストライプに合図した。
グレーストライプはうなずくと、三匹の先頭に立ってキャンプを走って出て行った。
ファイヤスターがハイレッジにとびのった。
もうすでにほとんどの猫がハイレッジの下に集まっており、声かけをする必要もなかった。
リーフプールもスクワーレルフライトとソーレルテイル、ニコルとともにハイロックのそばにすわった。
ファイヤスターが話し出した。
「今、グレーストライプが報告に来た。そのようすは皆も見ていたと思う。」
「いい報告ではない」
そういって一呼吸おき、いった。
「オークファングと、ブラックポーが死んだ」
その一声に、集まっていた猫たちから一斉に悲しみの声が響いた。
「二匹は、何者かによって殺されていたらしい。グレーストライプとあの三匹には遺体を運んでもらうために行ってもらった」
「誰に殺されたの!!?」
猫たちからひとつの叫び声が上がった。
亡くなったブラックポーの母親のマウスペルトだ。
マウスペルトにとってブラックポーははじめての子だった。
それだけにショックは大きいのだろう、とリーフプールは気の毒に思った。
ファイヤスターがマウスペルトへ優しくかえす。
「それはまだ分からない。けど、必ずつきとめる」
そういうと顔をあげた。
「今、森に何らかの危険がある。これから、なにか気になるものを見つけたら、すぐに俺に報告してくれ」
そういうと、少し声のトーンを落としてつづけた。
「オークファングとブラックポーの葬儀は今夜行う」
そういって、ファイヤスターはハイレッジを飛び降りた。
まだ、空気には悲しみがただよっている。
「何でうちの子がころされなくちゃならないのよ? 何で?」
マウスペルトの悲痛な声が響いていた。
そのとき、遺体をつれてきた四匹の猫が帰ってきた。
亡くなった二匹は、無残な姿だった。
皮膚はあちこち切りさかれ、体中の毛は血で赤く染まっていた。
オークファングの遺体はダストペルトとブルーストームが、ブラックポーの遺体はブラクンファーが運んできた。
グレーストライプは何かをくわえていた。
リーフプールがいた位置からは、それが何なのかはよく分からなかったが、グレーストライプはそれをもって族長の部屋へいった。
二匹の遺体は空き地の中央に横たえられた。
二匹の周りに、たくさんの猫がよっていった。
リーフプールは恐ろしかった。
これは、あのお告げの始まりなのだろうか。
やっぱり、もう始まってしまったのか。
スクワーレルフライトの目も、恐怖に光っていた。
リーフプールはスクワーレルフライトと目をあわせ、身を寄せ合った。
これからのことが、恐ろしかった。
これから、いったいどのくらいの猫が殺されてしまうのだろうか。