多数決

 

 

キャンプの中は、あまり変わった様子はなかったが、族長の部屋の前で、ブルースターとイエローファングが話していて、ファイヤハートに目が合うと、こっちに来るようにあごで示した。

 

 

 

「ネコの一族・・・。」

 

黒猫が意味ありげに呟く。

 

 

 

「連れてきましたよ。」

 

「少し遅かったようじゃないか。」

 

イエローファングが言う。

 

「ちょっと、のんびり歩いてました。 その… 不慣れな猫をそんなに早く歩かせるもんじゃないと思って。それと、スター族や一族のことを話していました。」

 

あわてて付け足すとイエローファングは納得したように頷く。

 

黒猫が隣に座る。

 

 

 

ブルースターが、きれいに座りなおして黒猫に言う。

 

「そこのあなた。キッショウと言ったわね? あなたはこの先、一族にとって必要になるかもしれないの。」

 

ブルースターの言ってることは本当だろうか?

 

驚いて黒猫・・・ キッショウを見るが、別に特に反応もせずに黙っている。

 

「サンダー族の看護猫の元に、スター族からのお告げがありました。」

 

ブルースターは続ける。

 

「イエローファングによると、"森の空が黒に覆われる。 その前に、空から大いなる黒き力が降りるであろう。"というお告げがあったわ。」

 

ファイヤハートは、イエローファングの友達で、誰よりもイエローファングを知ってると思っていたが、やはり予言までは教えてくれないか。とすこし残念に思った。

 

「まだ詳しくは分からないけど、もし、大いなる黒き力があなただとしたら、なにか一族のためになることをしてくれるのでは。と思ったのです。」

 

ブルースターは言葉を切り、黒猫の返事を待つ。

 

黒猫は、特に反応もせずに言った。

 

「でも、その黒き力が黒く空が覆われるのを止めるとは言われてないんじゃない?」

 

黒猫はためらわずにブルースターと向き合う。

 

「大いなる黒き力 が僕である。というのは認めるかもしれません。 でも、お告げは、僕が一族に役に立つと言ったのですか。逆に、大いなる黒き力が一族を滅ぼす。と伝えたかったとしたらどうするのです?」

 

ファイヤハートは、それを聞いて思わず黒猫からすこし身を引いた。なんだか恐ろしい"気"が出ている気がする。

 

「僕は大いなる力を持っている。 やろうと思えば、爪も触れずに遠くから猫を殺める(アヤメル)ことだって簡単にできる。」

 

 

 

そこで黒猫は、いきなりゆるやかになって言った。

 

「でも、そんなことは好みじゃないし、逆に、幸せにすることだって、一族を守ることだってできる。」

 

恐ろしい"気"が一瞬で消えてしまった。

 

黒猫はイエローファングを見て、こう言った。

 

 

 

「黒き力が一族を守ると捉えるのなら、僕はそれに従いましょう。」

 

そして一言付け加える。

 

「このまま帰っちゃうのももったいないしね。でも帰れって言うならすぐ帰りますよ。」

 

 

 

ブルースターがイエローファングと意味ありげに目でやり取りした後、黒猫に言った。

 

「なら、いてもらいたいわ。でも、一族の意見も聞きたい。 もういつでも集会が始められそうだし。」

 

そう言われて初めて気が付いた。

 

後ろを振り向くと、すでに一族の大半が黒猫に興味をひかれて集まっていた。

 

夜明けのパトロールに行って、ふつうは寝てる猫たちも起き出してる。

 

 

 

「何があったんだい?」

 

ふと声をかけられて、その方を見ると、親友のグレーストライプがいた。

 

「これから分かるよ。 一族にしばらく仲間が増えるかも。」

 

黒猫を耳で指しながら言う。

 

黒猫を見たグレーストライプが言う。

 

「飼い猫? でもそんなに太ってないな。強そうだね。」

 

「飼い猫じゃないみたいだよ。二本足に飼われてないようだし。」

 

「二本足?」

 

少し離れたところにいたはずの黒猫がすぐ隣にいて驚いた。

 

「二本足って… あ、もしかして人間の事かい?」

 

「ニンゲン…?」

 

「えっと、二本足は、自分たちのことをニンゲンって名乗ってるんだよ。僕たちが自分のことを猫って言ってるみたいにね。ちなみに二本足は自分が世界で一番偉いと思ってる生き物なんだよ。」

 

「よく二本足の事なんか知ってるな!」

 

驚いたグレーストライプが言う。

 

しかし、黒猫は首をひねって言う。

 

「いや…。 案外知ってるもんだと思ってたけど。 まあそれは置いといて。 これから何が…」

 

ちょうどその時。ブルースターが一族を呼び集める。

 

「獲物を捕れる年齢の者はハイロックの下に集まりなさい。一族の集会を始めます!!」

 

「一族の集会が始まるんだよ。君はそこにいて。」

 

そう言って、ハイロックの下の、一族が集まっている場所に入り、グレーストライプと並んで場所を取る。

 

 

 

ブルースターが話し始める。

 

「少し前に、イエローファングがスター族からお告げを受けました。」

 

みんな黙って聞いているが、黒猫のほうをちらちらと見ている。

 

「そのお告げの内容に、黒き力が現れる。とありました。 そして、今日、ファイヤハートとシンダーポーが訓練中に、空から猫が降ってきたと・・・。 それでよかったわね?」

 

目を合わせてきたので首を縦に振る。

 

シンダーポーが後ろから

 

「確かに空から落っこちてきました。カラスみたいに見えました。」

 

と言った。

 

 

 

「この事件と、予言の内容が噛み合うのなら、そこの黒猫は一族にとって必要な存在になるかもしれない。」

 

「その黒猫は浮浪猫か!? そんな猫を一族に迎え入れるなんかごめんだからな!!」

 

ダークストライプが怒鳴る。 他の猫たちも、ぼそぼそとダークストライプに賛成の声を上げる。

 

 

 

「でも、空から降りてきた猫が浮浪猫だとは考えにくいわ。 もしよろしければ、自分で説明してもらってもいいけど。」

 

そう言って、黒猫に目をやった。

 

 

 

「…。」

 

黒猫は、ブルースターを黙って見て、一族に向きなおって言った。

 

 

 

「僕はここらの猫ではないが、必要とされるのならここにいるし、必要なければすぐに帰る。よければ居させてもらいたいが、ここの皆の意見に委ね(ユダネ)ようと思う。」

 

 

 

黒猫は言葉を切ったが、皆が何も言わないので続ける。

 

 

 

「僕は、みんなから見たら、バケモノかもしれない。 空から降ってきた事も、信じてもらえないかもしれないし、僕が味方である証明も、敵である証明もできない。でも、僕にも分からないこの先の事で役に立つことがあるのなら喜んで力にならせてください!」

 

 

 

猫たちが皆ざわめき始めた。

 

「彼は信用できるのかい? 浮浪猫とかじゃないのか?」

 

グレーストライプは黒猫の方を見ながら興奮した口調で聞く。

 

「浮浪猫にしては綺麗じゃないか。 でも飼い猫にしては太ってない。」

 

「痩せてるだけじゃない?」

 

「うーん…。でも空から落ちてきたのは本当だよ? 飼い猫も浮浪猫も空から落ちてこないよ。」

 

「森のどの部族の猫も空から落ちてこないと思うけどなぁ…。」

 

「だね。 それじゃ本当にカラスなのかもね。」

 

グレーストライプが口を開くと同時に、ブルースターが全員を注目させた。

 

 

「私とイエローファングは賛成。タイガークローは反対です。 意見が分かれてしまったので、皆の意見を聞く必要があると思うの。」

 

 

 

誰も答えないので、ファイヤハートは立ち上がる。

 

「僕は賛成です! きっと役に立ってくれると思います!!」

 

そう言って、ブルースターを見ると、優しく微笑んだ。

 

「賛成の意見がひとつ増えました。意見は多い方がいいわ。」

 

グレーストライプも立ち上がって言う。

 

「僕も賛成します。」

 

そう言って座ってしまった。

 

ファイヤハートも続いて座る。

 

「俺は反対だ!!」

 

今度はダークストライプが反対の意見を述べる。

 

続いてロングテイルも立ち上がり、

 

「同じく俺も反対。そんな猫、一族には不要だ。」

 

ロングテイルの冷たい言葉にファイヤハートは怒りそうになる。

 

 

 

「これでまた同じになったわね。 でも賛成がひとつ多いわ。 他の意見が無ければ、とりあえず居てもらう形を取りたいと思いますが?」

 

 

 

猫たちは、顔を見合わせたが、ぼそぼそと賛成の声を上げる。

 

もちろん、タイガークローやダークストライプ、ロングテイル以外の猫たちである。