実力証明
「では、そこの黒猫、キッショウにはとりあえずここにいてもらうことにします。そして…。」
ブルースターは黒猫をハイロックから見下ろす。
「あなたは何ができる? 役に立つことが何かあるかしら。」
黒猫はブルースターを見てから、猫たちを見て言った。
「そうですね。 野生の猫の暮らしは本で読んだことしかないけど、僕も負けないくらい厳しい場所で生きてきた。戦うことはそれなりにできるし、他にも…」
「無理に決まっている!!」
タイガークローが割って入ってきた。
族長の決定に不満なのだろうか。
黒猫はタイガークローを見る。
「なんでさ。手合わせしたことも無い相手にそんなこと言うもんじゃないぜ。」
黒猫が不敵に笑う。
「僕も手合せしたことないから君の実力はわからないが、僕は多分君より強い相手と戦ってるぜ?」
タイガークローが毛を逆立てる。
ファイヤハートは黒猫が恐ろしくなって口出しができなかった。
「黙れ!浮浪猫のくせに!!」
黒猫はさらに笑う。
タイガークローを嘲笑う(あざわらう)かのように、見下した目で見ている。
「知ってるかい? 相手のことを"浮浪猫"ってしつこく言う奴は、自分が"浮浪猫"なんだって。」
タイガークローは唸り、戦おうと構える。
「一族の生まれでもないくせに! よく俺に向かってそんなことがいえるな!!!」
黒猫は姿勢を崩し、伸びをする。
そして片手を舐めながら言う。
「残念。君のこと知らないからさぁ。 それとさっき言ったのはさ、」
黒猫がニヤリ。 ゾッとするくらい不気味に笑う。
「冗談だよ?」
タイガークローは黒猫に突進した。 歯を剥いて飛びかかって行った。
「猪突猛進(チョトツモウシン)。このことだね。」
黒猫は小さく横に跳ぶ。 そして、黒猫がさっきまでいた場所にタイガークローが着地する。
間一髪の事なのに、黒猫は悠然としている。
「真っ直ぐすぎるから策略には簡単にはまる。 力があるけどテクニックが無い。 ついでに言うと知恵も欠ける。 別に手を加えるほどの相手じゃないね。」
また黒猫が小さく跳ぶ。 タイガークローは、また黒猫がさっきまで居た場所に長い爪を突き立てる。
タイガークローは頭に血が昇っているが、黒猫の方は遊んでいるように見える。
「ほれほれ。もっとかかってきな。暇だよ。」
黒猫はタイガークローに向かって尻尾を振る。
タイガークローはただ唸り、飛びかかる。
今度は黒猫は自分ごと後ろに倒れる。
傾いた黒猫の体の目の前をタイガークローの大きな体が通る。
黒猫はタイガークローからウサギ3匹分距離をとる。
「多分、次で決着さ。 どっちが勝つかは今わかるよ。 あえて言うと、勝つのは僕じゃないよ。」
ファイヤハートは黒猫の言うことの意味が分からなかった。
今、明らかに有利なのは黒猫だ。 もちろん怒りに狂ったタイガークローの攻撃を受けたら命も危うい。 だが黒猫はその攻撃をかわしていた。 なぜ黒猫が勝たないのだろう。
タイガークローは唸りながら呟く。
「じゃあおまえを殺してやるよ…。」
驚いて、トラ柄の戦士を止める言葉を言おうとしたが、声が出なかった。 口がパクパクとしか動かない。
タイガークローは雄叫びを上げながら黒猫に突進する。
黒猫は動くどころか、構えることもしない。
タイガークローはもう爪を剥き、強靭な腕を振り上げていた。
やられる!!
そう思った途端、黒猫が尻尾を振った。
時間がゆっくり進んでるように見え、尻尾が二本に見えた。
タイガークローが腕を振り下ろすと、そこからどこからともなく落ち葉が舞い上がった。
黒猫の姿が舞い上がる落ち葉と対となり、消えた。
舞い上がった落ち葉の中を通過したタイガークローは驚き、急ブレーキ。
落ち葉がすべて地面に舞い降りる。
「決着なんて、つける必要ないよ。」
黒猫はいつの間にかにタイガークローのすぐ横にいた。
身体を伸ばし、タイガークローの耳をひと舐めする。
すると、舞い降りたはずの落ち葉が、風もないのに再び舞い上がる。
落ち葉は竜巻に巻き込まれたかのようにぐるぐると渦巻いて、タイガークローと黒猫の周りを回った。
落ち葉はどこからともなく増え続け、回り続ける落ち葉の壁で2匹の姿は見えなくなってしまった。
「黒猫め!! どこに行きやがった!!! 隠れてねえで出てこい!!!」
落ち葉の渦からタイガークローの叫びが聞こえてくる。
声が少し震えている。 恐怖を感じている。
「隠れてないのにね。」
すぐ横から声がしたので見たら、渦の中にいたはずの黒猫がいた。
「うわっ!! い、いつの間に!?」
思わず大声を上げてしまう。
ファイヤハートの驚く声を聞いて、一族のみんながこっちを見たが、全員が同じく驚く反応をした。
もう異常に増えてしまった落ち葉の中では、タイガークローの言葉にならない叫びが聞こえるだけだ。 怒ってるのか助けを求めてるのか区別がつかない。 というか、助けを求めていても、あの渦の中に突進する勇気はさすがに無い。
「僕はねぇ、危害を加えないって約束してるからさぁ。タイガークローに攻撃しちゃいかんのよ。」
「いや、充分攻撃してると思うけど…。」
「まさか。 あれは落ち葉で目を回してるだけだよ。 しかも落ち葉1枚だけだし。 さっき体にくっついてたの。」
「…。」
もう口出しができない。
黒猫が立ち上がって、大量の落ち葉(に見える)渦に近寄り、前足を渦に差し入れる。
そして、1枚、風に舞う落ち葉を拾うと、渦はぴたりと消えた。
目の前で、タイガークローがよれよれと倒れる。
黒猫がまた片足を舐めながらハイロックの方を見る。
「相手の目を回すのは危害を加えるに入るのでしょうかね? というか、少なくとも僕がひ弱でないことが証明できればいいのですけども。」
ブルースターは、ハイロックの上で、夢から覚めたように頭を振った。
「タイガークローは無事なの…?」
「怪我はさせてません。 目を回してるだけですから、少し休めばすぐ元通りです。 あ、忘れてた。」
黒猫はくるりと回って、皆の方を向いた。
「えっと、タイガークローって言った? 彼はひどく目を回していて戦えない。だから戦いは放棄となる。 僕は、目を回した相手に勝つなんて意味はないから、僕も戦いを放棄する。 そうするとどうなるか分かるかい?」
黒猫は間を空けてから言った。
「引き分け。 どちらも勝っていない。 彼は負けてないし、僕は勝ってない。タイガークローさんの経歴には傷をつけないし、僕はタイガークローさんと並ぶ程度の強さだってことが分かると思う。」
黒猫はなぜか"さん"を付けて、目を回して倒れた戦士の事を呼んだ。
「攻撃しないって約束だったからねぇ。 これが限界。物足りなければ誰でも相手するけど。」
タイガークローの両脇にダークストライプとロングテイルが走り寄り、目をひどく回したとら柄の戦士を戦士部屋まで引きずって行った。
黒猫はブルースターの方に向く。
「えっと、まだ話してる途中だったんですけどぉ、いいですか? 話しても。」
ブルースターは、少し戸惑ったような表情を見せたが、うなずいた。
「んじゃぁ、 まあ、キャリアもタイガークローよりも、いや、タイガークローさんと同じくらいある。ということで、それなりに戦えるよ。」
黒猫は笑顔で猫たちを見る。
先ほど戦ったとは思えない笑顔だった。
「戦うだけじゃないよ。 さっき思いついたんだけど、迷惑じゃなければ、ひとつ仕事を貰いたいんです。」
そう言ってブルースターを見る。
「仕事とは? その内容によるわ。」
少し落ち着いてきたブルースターが言う。
「ここの猫たちみんなね、悩んでることが多すぎるんだよ。 誰とは言わないけど、恋をしてたり、不安を抱えてたり、昔のとあることを引きずってたり。」
ファイヤハートにも心当たりがあった。
タイガークローがレッドテイルを殺したということだ。
レイヴンポーが本当に見たのか。 それが事実なのか。
僕は戦士になる前から気になっていた。
「僕はその話を聞いて、解決してやる。 いわば悩み相談だよ。」
悩み相談とか、マジでたった今の思いつきwwwww
>さっき思いついたんだけど・・・
ほんとに、さっき思いつきましたww by吉祥