決闘後
周りがざわめいた。
スクワーレルフライトは驚いた。
ホーリーナイトがこんなにも強いとは。
ホークウィングは崩れ落ちたまま、ぴくりとも動かない。
リーフプールが駆け寄った。
リーフプールが顔を覗き込み、すぐに顔をあげた。
ホークウィングは脳震盪を起こして気絶しているだけのようだ。
「ホークウィングは大丈夫です。外傷はありません」
ハイロックの上にいるファイヤスターに報告した。
ざわついていた一族をファイヤスターが一声鳴いて鎮めた。
「ホーリーナイトは自分の身も守れる。二匹とも自分の獲物は自分で調達するよう、指示した」
そして一族を見回す。
「何か文句があるものは?」
誰もその問いに答えるものはいない。
「話すことは、これだけだ。大集会へ行く猫は時間に遅れないように」
そういうと、ファイヤスターはハイレッジから飛び降りた。
グレーストライプも少し後に飛び降りる。
そして二匹はスクワーレルフライトたちのほうへやってきた。
「ナイトファング、もうそろそろ正午なんだが、正午のパトロールに行ってくれないか」
ファイヤスターがナイトファングに声をかける。
「他に戦士を二、三匹つれて」
ナイトファングが立ち上がる。
「分かりました、ファイヤスター。すぐに行ってきます」
そういって、スクワーレルフライトに「じゃね」と声をかけると、パトロールに行くメンバーを探しに歩いていった。
グレーストライプがスクワーレルフライトに話しかける。
「スクワーレルフライト、おまえも今夜の大集会は参加だ」
スクワーレルフライトはナイトファングを追っていた目をグレーストライプにむけ、うなずいた。
「分かりました、グレーストライプ」
「じゃあ、俺は他の猫に声をかけてくるよ」
グレーストライプはファイヤスターに声をかけ、歩き去った。
ファイヤスターも、スクワーレルフライトに意味ありげにうなずきかけると、自分の部屋
へもどっていった。
リーフプールはホークウィングのそばでようすを見ている。
スクワーレルフライトがそのようすを遠巻きに見ていると、ホークウィングのしっぽが微かに動いた。
つづいて全身を軽くふるわせ、頭を上げた。
リーフプールがホークウィングに何か話しかける。
それにホークウィングが低い声で答える。
そして立ち上がり、リーフプールに一言いい、近くにいたストームクラウドとともにリーフプールのもとを去っていった。
リーフプールがスクワーレルフライトのもとへやってきた。
「ホーリーナイトとニコルは?」
リーフプールが問いかける。
スクワーレルフライトはきょろきょろとあたりを見回す。
「んー・・・あ。あそこ、看護部屋の横にいるわ。ナイトファングはパトロールに行ったわ」
「そういえば。すごかったわね、ホーリーナイト。あんなに強いなんて」
リーフプールが言う。
「ほんとに! ほんとに強かった。あのホークウィングが一撃よ」
スクワーレルフライトもそれに答える。
「話しにいかない?」
そういってスクワーレルフライトは例の二匹のところへ歩きだした。後ろからリーフプールも歩きだした。
近づくと、話している声がきこえた。
「ホーリーナイトォー・・・。なんであんなことしちゃったんだよ? 恨みかうようなことしちゃって」
「別にいいだろう。俺が恨みをかったところでニコルまで恨まれるわけじゃないし、俺は別に恨まれても気にしない」
「同じよそ者なんだよ。恨まれるにきまってるじゃないか・・・。ああ、もう・・・・・・。ホーリーナイト頭いいのにそんなこともわからないのかいぃ?」
「この際おまえも一緒に受けて立てばよかったんじゃないか?」
「そんな面倒起こしたくない」
「じゃあこれが一番いい結末だ」
「・・・・・・ファイヤスターに『無駄な殺生はしない主義』って」
「今回のは正当防衛だ」
「・・・・・・」
仏頂面のニコルを横目に、スクワーレルフライトは二匹に近づいた。
「あ、やあ。さっきは、ホーリーナイトが面倒起こしてごめん」「吹っかけてきたのはあっちだ」
ニコルがスクワーレルフライトにいい、ホーリーナイトがすかさずつっこみをいれる。
スクワーレルフライトとリーフプールは顔を見合わせて控えめに笑った。
「ねえ、ホーリーナイト。すごかったわね! あんなに強いなんて。どんな指導者に教えてもらったの?」
スクワーレルフライトがホーリーナイトに言う。
「・・・俺たちのいた国のこと話したろう?」
ホーリーナイトが低く答える。
「指導者っていうのは、いないんだよ。狩りの初歩は母猫に教わるけど」
ニコルが補足する。
リーフプールが首をかしげる。
「じゃあ、どうやって?」
「自分で学んで、技を磨き、作り出すしかないんだ。単独で暮らしていると、いやでも戦うことは多いし」ニコルが説明する。
「へえ・・・そうなの」
スクワーレルフライトが感心して言う。すると、すぐ後ろから声がきこえた。
「スクワーレルフライト、おまえ遊んでばかりいないで狩りにでもいったらどうだ。そこの二匹も獲物を捕ってもらわないと困る」
ストームクラウドがニコルとホーリーナイトの二匹を冷たい目で見、いう。
ホーリーナイトがふんと鼻を鳴らす。
「サンダー族にはおまえたちにやる食い物はない」
そういうと、すたすたと歩き去った。
スクワーレルフライトはストームクラウドの後姿をにらみつけた。
「・・・むかつく。何よあの言い方。絶対、お友だちのホークウィングがホーリーナイトにやられたことを根にもってるのよ」
リーフプールがおだやかに言う。
「しょうがないわよ、そういう猫だもの。それに、ストームクラウドにも悪気はないわ」
スクワーレルフライトがリーフプールに目をもどす。「・・・そうだけど」
スクワーレルフライトは立ち上がり、ずっと座っていてかたくなった筋肉をほぐした。
「狩りにいってスカッとしましょ。ニコルとホーリーナイトも。リーフプールもたまには狩りしましょうよ」
「そうだね、僕も行くよ」
ニコルがそれに答え、立ち上がり、同じように伸びをする。
そして、ホーリーナイトをつつく。
「ホーリーナイトも行こう」
ホーリーナイトは面倒くさそうにたちあがる。
リーフプールは少し迷い、答えた。
「そうね、たまには気晴らしもいいわね。今は私の仕事も少ないと思うし」
「じゃ、決まり。行きましょ」
スクワーレルフライトはそういうと、先頭に立って四匹でキャンプを出た。