ジェリクルキット

 

 

「大変だよ!!!!  子猫が一匹いないんだ!!!! 誰か知らない!?」

 

ファイヤハートはビクリと眠りから覚め、飛び起きた。

子猫がいないだって!?

 

戦士部屋を飛び出した。

 

キャンプの真ん中に猫たちが集まっている。

 

「一匹だけいなくなったらしいぞ」

「見張りはどうしたんだ!」

「見張りの猫は、しっかり見張ってたのに、誰も通らなかったと言っていた。」

「確か子猫のいる部屋には穴があったはずだ。 そこはどうだ!?」

「しっかりふさがっている。 あそこから出ることはないだろう。」

「じゃあ見張りがしっかりしてなかったんだ!!」

 

ファイヤハートも輪に押し入り、会話に加わろうとした時に丁度、ブルースターがハイロックから声をかけた。

 

「静かに!! みんな落ち着いて。」

 

さすがブルースター、冷静な声だ。

猫たちはいっせいに黙り、族長の言葉に耳を傾ける。

 

「ジェリクルキットが行方不明です。 この中に、心当たりのある者はいますか?」

 

誰も何も言わない。

 

「そう…。 では、どこから抜け出したのかも分からないようですので、 三匹以上でグループを組んで、捜索をしてください。 時間はとても遅いです。 出来るだけ早く見つけてください。  ただし、キャンプを無防備にすることは無いように。 以上。」

 

そう言ってブルースターはハイロックを飛び降りた。

 

 

次々に猫たちのグループができ、急ぎ足でキャンプを出て行った。

 

 

ファイヤハートはグレーストライプを探すも、風邪だから出られないのかと思いなおす。

 

キャンプにはもう猫たちはほとんどいなかった。

もうキャンプに残るしかないようだ。

 

 

戦士部屋の入り口の前に座り、キャンプを見渡す。

 

待っている猫は5匹ほどだ。

襲撃は無いだろう。

 

キャンプの周りを猫たちがパトロールしてるから、途中で発見されるだろう。

 

 

「・・・」

 

気が付くと、座ったまま半分寝ていた。

 

頭を振って眠気を飛ばし、キャンプを見回すが、相変わらず待機の猫が5匹ほどいるだけだ。

いくら念のためとはいえど、こんな緊急の事態に居眠りは許されないだろう…。

 

 

にわかにキャンプの入り口から足音が聞こえた。

 

 

急いで入り口に駆けつける。

 

 

ホワイトストームが入り口を潜り抜けて出てきた。

暗い表情だ。

 

 

「…どうでしたか?」

恐る恐る聞いてみる。

「ああ。 見つかった。 四本木からキャンプに向かって歩いていた。 だが・・・・。」

ホワイトストームは入り口を振り返る。

 

すると、ブルースターが黒いものを咥えて現れた。

 

 

「・・・ひどい…。」

 

キャンプで待機していたラニングウィンドが呟いた。

 

 

ブルースターが咥えて来たのはもちろん子猫だった。

 

傷だらけで、今も血が滴っている。

 

 

イエローファングが看護猫の部屋から走ってきた。

 

ブルースターは子猫を地面に置き、イエローファングに向かう。

 

「できるかぎりの事をしてあげて。」

「ああ。 言われなくても。」

 

イエローファングがそう言って子猫を咥えようとすると、

 

「まって…!」

子猫が震える声で悲鳴をあげた。

 

「ブルースター・・・  きいてください・・・・」

 

「無理してはいけないわ。ジェリクルキット。」

ブルースターがイエローファングに連れて行くように目で指示する。

 

「スター族さまが・・・ 今少しだけ待ってくれてるの・・・  今じゃないと・・・ 」  

 

ゲホッゲホッ!!

 

ジェリクルキットが血を吐く。

 

「イエローファング!! 早く!!」

ブルースターは急かすように言う。

「無理だよ。 スター族様がもう迎えに来ている。 最期の言葉だ…。」

 

ブルースターとイエローファングが憂鬱に目を伏せる。

 

ジェリクルキットは、苦しみながら、自分の見たもの、聞いたものを言葉にした。

「四本木に・・・ カラスが・・・ 呼んでたの・・。」

「カラス?」

「う、ん・・・  言ってたの・・・。  森を・・・森を明け渡せ って・・・」

「・・・」

ブルースターが黙り込んだ。

 

「そのあと・・ 私を・・・ おもいっきりつついて・・・

 

ゲホッ!!

再び血を吐いた。

 

「がんばれ・・・」

ファイヤハートは無意識にジェリクルキットに寄り添い、温もりを与えていた。

 

「森を明け渡し、出ていくのなら手出しはしない… って…  言われたの。。」

 

「・・・わかったわ…。」

 

ブルースターも子猫に鼻をこすりつける。

 

 

 

 

ファイヤハートとブルースターは、子猫の息が遠のいていくのを感じた。

 

 

そして、息が途絶えた。

 

 

 

しばらくの沈黙。

 

 

 

キャンプにもう一つ、部隊が戻ってきた。

 

ブルースターは顔を上げ、捜索隊を探して呼び戻すように猫たちに命じた。

 

 

 

ファイヤハートはその場を動けずにいた。

 

 

どんどん子猫の体が冷えていく。

 

 

ただただ惹きこまれ、小さな体から何かを感じ取ろうとしていた。

 

 

 

冷たい…。

 

 

 

ふと、ファイヤハートは、ジェリクルキットとの思い出を思い出そうとした。

この子猫とは一緒に・・・  一緒に・・・・・・

 

 

 

 

 

「・・・?」

 

おかしい…。 一族の猫のはずなのに。 一緒に何かしていたはずなのに・・・・ 

 

 

(そうだ! 吉祥はどこだ!! さっきからずっといないぞ…!?)

 

 

思い出せないジェリクルキットとの思い出。

キャンプにいない吉祥。

 

 

そういえばジェリクルキットの毛色も吉祥の毛色も黒い…

 

 

 

ピクッ…

 

 

「えっ…!?」

 

ジェリクルキットが動いた…!?

 

 

 

黒い体に胸に耳を押し付ける。

 

 

 

 

体は冷たい。

鼓動も無し…。

 

 

 

その時・・・

 

 

 頭に響く複数の言葉

 

《お前はそうして――になるのか》

《あれ? 死んだんじゃなかったの?》

《殺してやる。 お前が消えないと気が済まない。》

《何をしたか分かってるのか!!》

《お前の負けだ。死に損ない。》

《お前が死ぬのは当然だろう?》

《よくもお前・・・ あいつを…!!》

《死ね!! 消えていなくなれ!!!》

《私の前に二度と現れるな。》

《お前さえいなければ・・・》

 

 

ファイヤハートの頭の中に強引に流れ込む言葉

見たくなくても見させられる何かの風景

そして響く、彼の声…

 

【仕方ないでしょう。 そんなこと。】

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああ!!!!」

 

 

大声で叫び、狂ったように走り出す。

 

 

今や、ファイヤハートは狂気に支配されていた・・・

 

 

 

 

 

※   ※   ※   ※

 

 

 

術が解ける。

痛みから解放され、自分の体の感覚が戻ってくる。

 

 

 

吉祥は顔を上げる。

 

 

「あるぇ・・・?」

 

 

全く予想していない状況だった。

 

 

 

暴れるファイヤハート。

それを必死に止めようとするブルースター。

暴れるファイヤハートを恐れて端に避難する猫たち…。

 

 

ファイヤハートは自我を失い、何かに操られたかのように暴れている。

 

 

あれ、こっち来る。

 

 

ズシンッ!!!

 

「うげっ!?」

 

暴走したファイヤハートが頭突きをかます。

吉祥は避けるが、右肩に頭突きが当たる。

 

少し集中を乱されながらも、とっさにファイヤハートの心を読み取る。

 

 

「・・・!?」

 

そこには全く予想していないものが視えた。

 

 

自分自身の、ほとんどだれにも語ったことのない過去の歴史、記憶だった。

 

 

僕自身の黒の歴史。

 

思い出したくもない戦いの歴史。

 

それらの黒の歴史を、ファイヤハートは今見せられている。

 

 

なんてこと・・・・。

 

 

「あなた!! ファイヤハートに何をしたの!?」

声の方を振り向くと、思いっきり睨んだブルースターの顔があった。

しかしブルースターの本心は、ファイヤハートの異常についてひどく恐ろしくなり、恐怖に包まれているのがわかった。

 

「彼は今、僕の昔の記憶を見てるみたい。」

「早く元に戻して!!」

「無理。」

冷たく言い放ってやる。

そうしないと、まだ希望があると勘違いされる。

 

「そもそも、記憶に干渉するのはすごく面倒であって、本人の記憶にいい影響が出るとは限らない。命に関わる事ならなおさら。そこらの部類になると、僕も手を付けるのが嫌になって来るし。」

 

 

しかし、恐らく責任は僕にある。

理由は知らないけど。

 

僕の記憶を見ている という事は、僕が術を解いた際に、なにか力が漏れだし、それをファイヤハートが吸収してしまったという事かな?

 

 

ま、久しぶりに得体の知れないものを相手にするんだ。

無駄に術を使ってみたっていいかもしれない。

 

そう思うと、不敵に微笑んでいた。

 

「ちょ・・・ あなたその笑いは・・・。」

ブルースターが一歩身を引く。

「ちょっと、術解禁しますよ? 近寄ったら危ないとかそーゆーのは無いから安心してね?」

しかしブルースターはキャンプの端に避難してしまった。

 

 

ファイヤハートは、走り回るのを止め、頭を押さえて苦しそうに呻く(うめく)。

 

 

術を使うために必要なのは、呪文だったり、魔法陣だったり、いろいろあるけど。

猫股の場合は、"意志を形にする力"がある。

その事象を表す"絵"だったり

その情景を表す"音色"や"旋律"だったり

そして、物事を表す"思考"であったり。

 

それらを形に変えるのが猫股の力。

 

特に俺はバツグン!!

 

いやいやどうでもいいそんなこと。。。

 

 

 

ファイヤハートが起き上がり、再び走る。

 

僕に向かって一直線。

 

 

 

いざ!!!

 

 

「・・・。」

 

 

 

3秒後には、気を失ったファイヤアートと、前足を舐めた吉祥がいるだけだった。

 

 

意志だけで力を使えるのも、なんか味気が無くってつまらない。

 

 

 

ファイヤハートが息をしているのを確認して、はあ、と安堵の息をついた。

 

 

 

ファイヤハートが暴走した後から、だいたい2週間くらい悩んでたのかな・・・www

 

吉祥は気分が向いてればいくらでも術を使って、気が向かなければサボってます。

まあ、彼を動かすのは楽しいか楽しくないかなのでw

楽しむようになればなんだってやってくれる・・・  ハズ。。。

 

ちなみに、ジェリクルキットとは、ミュージカル「キャッツ」より、ジェリクルキャットをお借りしましたw

確か造語だからジェリクル自体は意味を持たないはず・・・w

 

 

え? 吉祥の過去?

 

なにそれおいしいの?(^q^