悩み相談
黒猫は、少し前にイエローファングが捕虜として置かれていた長老の部屋の近くでまどろんでいた。
ファイヤハートは悩んでいた。
タイガークローの事を彼に相談していいのか。いけないのか。
まずその葛藤(カットウ:2つの事で迷うこと)を彼に相談したい気分だった。
まずは、深刻な問題じゃなくて、ちょっとした軽い質問をしてみることにした。
黒猫の所に行って、黒猫の前に座る。
「君はなんであんなに歓迎されなくても平気だったんだい?」
黒猫がタイガークローの目を回して戦えなくしたあの後。
ブルースターは、少しの間、一族に迎え入れる。と決めたが、皆は賛成しているようには見えなかった。
「僕は部外者。仕方ないんじゃない? しばらく待てば、みんな心許してくれる。 でも逆に、なんで君は僕を許すんだい?」
そう言われればそうだ。 普通なら自分も他の猫たちと同じく、黒猫を認めないだろう。 でも、何故か黒猫を応援したくなり、一族にいてほしい。なんて思ってしまっている。
「わからないよ。」
ファイヤハートは正直に答えた。
「僕の求めるところによれば、 恐らく自分と同じ境遇だから、味方をしたくなるんだろう?」
「えっと・・・ 難しい言葉が多くて分からないよ…。 きょ、きょうぐう?」
「ああ、ごめんね。 んじゃ、こういえば良いかな。 昔のファイヤハートと、今の僕の状況が少し似ている。ということだよ。 心当たりあるだろう?」
「…。」
「僕に隠し事はできないと思った方がいいよ。昔に何があったか位は一応分かる。 君は、ここの生まれじゃないし、別の場所から仲間入りした。 戦士の一匹の耳に傷をつけたのもその時だそうだね。 それはともかく。 僕も別の場所からこうして仲間入りをした。 状況はファイヤハートとほとんど同じってことさ。」
驚いた。 そう言われれば本当にそうだと感じる。
どこから来たのかだけ分からないが、よそから一族に入るのはこの自分と同じだ。
「そうみたいだ。 にしても僕が一族の生まれじゃない。ってどうして分かるんだい?」
「僕の能力のせいでね。知りたいことも、知りたくないことも、耳に入ってくる。 でも、必要じゃないのなら僕は絶対に喋らない。」
そう言って黒猫は体を伸ばす。
「じゃあ君は何でも知っているという事かい?」
「いいや。 なんでも知ることはできる。 でも全部分かったらつまらないんだよ。」
「どうゆうことだ?」
「全部っていうのは、なんで自分がここにいるのか。なんで君がここにいるのか。なんで自分が力を持ったのか。この世界を支配する力は何か。この世界を廻してるのは何か。そういったことを知ろうと思えば全部知ることができる。でもそれを全部知っちゃったら、まさにあとは死ぬだけになってしまう。 君に言うなら、この先、誰と誰が争って、誰と誰がスター族の元へ旅立って、このキャンプがいつどのように誰のせいで危機になるのかとか、この先に起こることを全部知ってしまうということだ。」
黒猫は一通り話してからまた体を伸ばす。
「全部知ったらつまらない。 だから僕らは、少しだけ知る事ができるように調節してるんだよ。」
「でも、この先起こる災いとかは分かった方が便利なんじゃないか?」
いつ他の部族が攻めてくるか分かれば、心の準備も、戦う準備もできる。 森に火事が起こるのが分かれば、先に避難もできる。
その方が便利だとファイヤハートは思った。
それに、それが分かる黒猫をすこし羨ましくなった。
「じゃあ、君がそれを分かったとしよう。 誰がそのことを信じるんだい?」
「みんな信じてく…」
「仮に皆が信じたとしよう。」
ファイヤハートが言おうとしたことを即座にさえぎる
「君がキャンプに火事が起こる。と言って、皆が信じて、キャンプを避難した後にキャンプで火事が起こったとしよう。 君は確かに一族を守ったと褒められる。 でもその後、君の周りに友達は誰もいなくなってると思うよ。」
「えっ、なんで?」
「君は、他の猫から見て、恐ろしい存在になる。気軽に話しかけられなくなる。 例えばそうだな、君はブルースターに友達のようになれなれしく話せるかい? よっ!ブルースター元気? みたいにさ。」
黒猫は大真面目に話していたが、ブルースターに話しかける真似をするときは面白くなってのどを鳴らしてしまう。
「何か用かしら?」
背後から声をかけられ振り向くと、そこにはブルースターがいた。
「さっき、私の名前が呼ばれた気がするのだけれど。」
ファイヤハートは思わず冷や汗が出る。
「いえいえ。とんでもない。確かに呼びましたが、用があってのことではないですよ。」
「・・・そう。 で、あなたはここで何をやっているの?」
ブルースターがファイヤハートに言う。
「い・・・ いえ。 ちょっとした相談を…。」
「どうしたのかしら?」
つかさず黒猫が口をはさむ。
「相談の内容は、喋っちゃいけない決まりになっております。 内緒なのです。 まあそんなに知らなくちゃいけない内容でもないので、ここは黙秘権を遂行してね。」
「モクヒケン?」
「自己の意思に反して供述をすることを強要されない。 つまり、言いたくないこと、言う必要のないことをわざわざ言う必要はないということ。」
「そ… そうなの…。 じゃあこれで…。」
黒猫の言ったことが理解できなかったのか苦笑いしてその場を去る。
「族長もなんでも相談してくださいね~。 気が楽になりますよ~。」
黒猫は笑顔で見送る。
「で、どこまで話したんだっけ?」
「えっと、僕が恐ろしい存在になるっていうとこまで。」
「そうか思い出した。 君が偉大な猫になってしまって、近寄れなくなる。」
「僕にはそうは思えないんだけど。。」
「う~ん。 未来のことが分かるようになると、君はスター族みたいな力を持っているということになるね?」
「スター族に?」
「うん。 他の猫たちは、スター族をとても尊敬している。 君も尊敬される。 でも、みんなよそよそしくなる。話しかけてくれない。みんな遠い。 これは僕自身よく経験してる。」
黒猫の言ってることがなんとなく分かった。
確かに、すごい力を持った黒猫に近寄るのだけで恐れ多いイメージがある。
まあ今回はマッタリとしてたから近寄れたけど・・・。
「僕としては、解決策がこうやってマッタリとしていることになったんだよ。 何があってもあせらない。 苦笑いされるくらいマッタリしてないと、みんな離れて行っちゃうんだなぁ。 まあ対策にしかならないからね。 んで…。」
黒猫はそう言って、ファイヤハートの後ろを見る。
「そろそろ打ち切りだよ。 後ろを見てごらん。」
そう言われて、ファイヤハートが振り向くと、タイガークローが真っ直ぐこっちにむかって歩いてくるのだった。